第32話 宴会の後に

「なんで?なんでなのよ、なんでこの可憐で妖艶で慈悲深い十全十美な私がマオなんかに負けるの?これって夢かしら。夢なのよね?」


探索者組合のテーブル席の一つ。

我がパーティーメンバーである氷の魔術師は本格的に飲み始めてから永遠と訳のわからない言葉を口から垂れ流していた。


今回の緊急依頼での魔物の討伐数で俺に負けたメトはその悔しさを酒を浴びるように飲むことで解消しようとしていた。

腹が一杯になって眠りかけているリンネに永遠と愚痴を言っては嘆いて叫んで酒を胃に流すを繰り返す。

メトのそれはまるで酔っぱらいの悪い典型みたいな飲み方だった。


「メト、お前がマオに負けたのは筋肉が足りなかったからだ。精進が足りないからだぞ」

言うと思った。

ヨルガも悪い具合に酒に頭を侵されているようだ。


「そんな訳ないでしょ?馬鹿なの?」

「全ての結果は肉体により生じる。体を鍛える事を馬鹿にしては駄目だぞ」

「馬鹿にしたのはアンタの頭よ」

「はっはっはっ、そうか。それは済まなかったな」

俺はメトの乱雑な言葉でヨルガがいきなり何かしでかさないかビクビクしていた。

「負けたのは実力なのですよ」

キャミコはぼそっと、しかしメトにちゃんと聞こえる声の大きさで呟いた。

彼女は酒を飲んでも顔色も態度も変わらないようで、この挑発とも取れる行動が酔っ払ってのものなのか素面でも変わりがないのかはわからなかった。


「実力?実力ですって。なら私がマオなんかに負ける訳ないでしょ。アンタもお馬鹿なのね」

「今までの事は知らないのです。でも今ならマオは貴女には負けないのですよ」


メトの目を見てキャミコはきっちりと反論した。庇ってくれるのは嬉しいが絶対に面倒な事になるのはわかっていたので、俺としてはメトの愚痴は全て聞き流して欲しかった。


「その言葉、忘れるんじゃないわよ」

「マオ!表に出なさいっ!私と勝負よ!」

ほらな、しかも勝負するのはなぜか俺だ。

メトはキャミコに挑発され矛先をこちらに向けてきた。何で一言も反論していない俺が巻き込まれなくてはならないのだろうか?

「絶対に嫌だ」

「負けるのが怖いんでしょ」

「そうだよ?だからなんだ?」

「ほらみなさい。こいつはこんなもんよ」

「マオなら負けないのです」

キャミコは言い分を変えなかった。

これは俺を庇っているというよりも、メトの言葉に左右されて意見を変えるのが嫌なだけに見えた。

こいつはこいつで面倒臭いな。

キャミコは意固地だった。


「ほら、この子の戯言を真実に出来るのはアンタだけよ。自分自身の行動で証明してみなさい」

「断るっ!なんでやっと守り抜いた命をこんなしょうもない言い争いで散らさないといけないんだよ」

「男のプライドの問題なのです」

そんなもの賭けた覚えはない。

勝手に俺のプライドを壊れたテーブルの上に乗せるな。


「私と勝負するのか、この子を黙らせるか、どっちかよ」


メトは今すぐにでも襲い掛からんばかりの態度だったので仕方なく俺は折れることにした。


「・・・じゃあわかった。勝負はまた今度だ。どちらにしてもメトは魔術が使えないんだろ?そんな奴と争っても意味ないだろ」

・・・やりたくねぇ。

「いい言い訳が見つかったわね、なんならここで殴り合いをしても良いのよ?」


なんでこいつはこんなに好戦的なんだ。

今日死戦をくぐり抜けたばかりだろ。


「俺は女は殴らん、とは言わないが仲間を殴る気はない。魔物の討伐数が原因なんだから次も同じ内容で勝負すればいいだろ?」


これ以上この話が拗れてるのは嫌だったので、重ねるように俺は

「もしかして負けるのが怖いのか?」

と挑発した。


「やってやろうじゃない!」

「決まりなのです」

メトは即座に乗ってきた、簡単な奴である。

それにしても面倒な事になった。

次からはキャミコの発言にも注意しつつ、酒を飲まないといけなくなりそうだ。

また余計な厄介事を招きたくないからな。


俺はどうかこの勝負についてメトが朝になったら忘れていますように、と願った。


でも、メトが覚えていたらどうしようか?

そうだな・・・。

その時は未来の俺に任せることにしよう。


頼んだぞ、なんとか上手くやってくれ。


俺は意味のわからない言い合いから生じた争いを未来の自分に押し付けて酒を煽った。




「腕相撲をやらないか?」


メトとの口論が一息ついてやっとゆっくり飲めると思った矢先、今度はヨルガが変な事を言い出した。

・・・勘弁してくれ。


「何でそんな事をしたいんだ?」

「突然どうしたのです?」


酔っ払いの発言にちゃんとした理由など無さそうだが、俺とキャミコは一応聞き返した。


「私も勝負がしたくなってな」


ほら、よくわからないだろ?

なんでそうなるのか説明してくれ。

いや説明しなくてもいいから静かに楽しく酒を飲んでいてくれ。


「じゃあ勝負をふっかけてきたメトとやれよ」

俺はさっきの口論の原因であるメトにヨルガの事を任せようとしたが、

「メトはもうぐっすりだ」

メトは良くないペースで酒を飲み続けて既にダウンしていた。

肝心な時に役に立たないヤツめ。


「どうだ?」

ヨルガはキャミコを視線を送り、彼女を勝負に誘う。

「断るのです」

キャミコはその誘いを一言で断った。

「俺も同じく」

「ダメだ」

俺も同様に断りを入れたが、却下された。


「ーーー何で俺だけ」


「お前まで断ったら私と腕相撲してくれる奴がいなくなるだろう?それぐらい分かれ。それに私もお前がどのくらい強くなったのか気になるんだ」


俺は魔術が一つ増えただけの三級魔術師だぞ。腕相撲は力の勝負だろ。

身体能力が遥かに優る魔法師に勝てる訳ないだろうが。


「勝負なんてやるまでもない。絶対に俺が負ける」


流石のキャミコも俺が勝つなどとは言い出さなかった。


「やってみなくければわからないぞ」

「分かるわっ!」

「いいから腕を出せ」

「い・や・だ」

「では剣で勝負をするか?それだと怪我をしてしまうだろ?」

卑怯だぞ、脅すなよ。

そもそも何で勝負をすることがヨルガの中で決まった事になっているんだ?


・・・酔っ払いに理屈は通じない。

ヨルガと酔った状態で剣で戦う?それも俺は短剣でだ。マジで死んじゃう・・・。


それなら腕が折れても箱に入れば治る腕相撲の方がマシなのは間違いない。

「わかったやればいいんだろ」

「そうだ」

渋々俺がヨルガの提案というか、暴力を匂わせた命令を受け入れると嬉しそうに彼女は笑みを浮かべた。


やるとなったらさっさと終わらせるに限る。


空いた皿やジョッキは店員に頼んで片付けてもらい、メトはキャミコにもたれかからせてからリンネを側の椅子を一つに乗せて、それぞれの安全を確保した。


「一回きりだ、いいな?」

「勝負はそういうものだからな、承知した」


肘をテーブルの上に乗せて俺はヨルガと手を組み合わせる。

合図を出すのはキャミコに任せた。

横目で彼女の唇が動くのを待ちながらスタートの言葉を待っていた。


「始めるのです!」


バタンッ。


キャミコの合図と同時に決着はついた。

片方の手の甲がテーブルへと叩きつけられた。


手の甲が痛い。

もっとちゃんと力加減をして欲しかった。

赤くなっちゃってるだろ?


当然負けたのは俺だった。

完璧に完全に文句無しに勝負は終わった。


「よし、これで終わり」


手の甲を摩りながら俺が言うと、

「待て」とヨルガが物言いをしてきた。

「なんだ?勝ったんだからいいだろ?」

俺がそう切り返すと、

「本気でやれ」

ヨルガは短く一言で言った。

感情は読み取れない。

「やったぞ」

「私が気付かないとでも思ったが?お前は腕相撲が始まると同時に逆方向に手を動かしただろ?」


ヨルガの言う通り、俺は自分の手の甲をテーブルの上に優しく叩きつけようとした。

それにヨルガの力が加わり少し強くテーブルに叩きつけることになってしまったが。

「だから本気で負けにいったんだよ」

「それではダメだ。もう一度だ」

「はぁ」

「ため息を吐くな」

「本気でやったら腕折れちゃうかもしれないから嫌だ」

「そんなことにはならない」

「なら少しずつゆっくり力を入れて俺を負けさせてくれ」

「いいだろう。どちらが負けるかはわからないがいきなり全力でやったりしないことは約束しよう」


俺とヨルガはもう一度手を組み合わせて今度は合図無しで勝負を始めた。


「なるほど」

「これでいいんだろ」


少しずつ力を強めていき耐えきれなくなった方がテーブルに手の甲をつけて負けになるということだ。

これなら怪我をする事もないだろう。


「これで全力だ」


俺はヨルガの望む通りに思いっきり力を込めた。予想通りヨルガは涼しい顔をしていた。

ほらな、こうなると思ったよ。


「マオと腕相撲をしたことがないから強くなったのかわからないな」

「もっと早く気づけよ」

「うむ、やっぱりわからないな。そしてお前は弱い」 

「だから言っただろ」

「では少し本気で行くぞ」

「おい、やめろって」


パタンッ。


ヨルガが力を込めると一気に形勢は傾き簡単に腕相撲は終わった。


「おい、もう決着はついただろ。力抜けよ」

「まだまだ」


まだまだじゃねーよ。


「おい、やめろ」

「最初に勝負を投げようとした罰だ」

ヨルガは俺のやり方が気に入らなかったようで更に力を入れてきた。


バキッ。バンッ。

遂に机が割れる音がした。

「痛ぇっ!」


机はバラバラに割れてて俺は体ごと床に放り出された。


「私の勝ちだ」

「だいぶ前からそうだったんだよ、この酔っ払い女め」


何を勝ち誇っているんだ?

やり過ぎなんだよ。


「マオ、お前は本当に強くなったのか?」

「あぁ、そうだよ」

「そうか、だが確かめられなれなかったな。これではあまり意味がなかったのかもしれん」


だから意味ないと何度も言ってただろ。

こいつふざけるなよ。

ヨルガの勝手な言い分にムカついて俺は立ち上がり、


【スウィッチ】


気付くと魔術を行使していた。


そしてヨルガの上半身の鎧が移動して床に落ちた。


「全部剥いて裸にしたら少しは後悔するか?」

「やってみるがいい。では二回戦だ」


俺も酒に頭をやられていたようだ。

ヨルガのつまらなそうな顔が一転して楽しそうに口端を上げた。

勝負は腕相撲から立ち合いになり、次戦へ突入した。




「来い!」

「言われずともっ!」


【スウィッチ】


起動句を唱えながら俺は手を伸ばしてヨルガの体に触れようとする。


ヨルガは避けながら移動するとメトの腕を引っ張り盾にして、俺に触れさせた。


「仲間をガードに使うな」

「仲間の服を剥こうとしているやつの台詞ではないな」


俺の魔術でメトの着ていたローブが右手から左手へと移動してメトはキャミソールと下着だけの姿になった。

俺は奪ったローブをメトの上に投げ捨てる。

「キャミコ、メトのことは任せた」

「わかったのです」


右手で触れようとして外側から手首を掴まれ、次は左手で捕まえようとしてそちらの腕もヨルガに掴まれた。

両方の手首を抑えられた俺は一瞬立ち止まる。


さて、どうする?


やはりヨルガの方が断然動きは早い。

こちらが動いた後でも見てから完璧に対応してみせた。

でも掴んだ俺の腕を握り潰したりはしなかった。これは余裕の表れだろう。

彼女にとってこの勝負は遊びだ。

ならせめて一撃だけでも・・・。


手を動かせなくなった俺は素早く足を振り靴を脱いで魔術を行使する。


【ネライウチ】


靴下に魔術をかけてヨルガの顔面に当ててやろうと移動させた。


ダメージにはならない攻撃でヨルガは敢えて避ける必要もなかったのだが、顔に靴下をぶつけられるのを嫌がって俺から手を離して一歩後退した。


「それが新しい魔術か?」

「とくと御覧あれだ!」


【ネライウチ】


他のテーブルに乗っていた酒入りのジョッキに触れてまた魔術を行使する。


「甘い」


酒で全身を濡らしてやろうと思ったのだが、ヨルガは寸分の狂いもなく体を動かして見事にそれを掴んでみせた。


「酒を無駄にするな」


そして中にあった酒を飲み干すと、床にジョッキを捨てた。


ガン、カランと音が酒場に響く。


「お前が使ったのだから私も使わせてもらおう」


【杯を満たせ、酒踊り】


ヨルガは魔術を行使し、酒を生み出した。


「お前も飲め、私の奢りだ」


その酒を操り、俺に向けて発射した。

回避しようとしたが、ヨルガの操った酒は一直線に進むだけではなく追尾してきた。メトが放つ氷弾とは少し違うようだ。

俺は酒弾が当たりそうになった瞬間に


【ネライウチ】


魔術を発動してヨルガの放った酒弾をそのままお返しした。


「なにっ!?」


自分の魔術を返されると思ってなかったのかヨルガはそれを避けずに顔面で受けた。 


「やるではないか」


まずは一つ。

これで俺は終わっても良かったのだがヨルガはまだ終わる気がないらしい。


【鬼殺し】


なんだ?それ?どういう魔術だ。

ヨルガは近くにいた探索者の頭を掴むと俺が聞いたことのない起動句を唱えて魔術を行使した。


「いけ」


ヨルガが一言命令すると、頭を掴まれた探索者は俺の元へ走ってきた。

今度は人酔わせて操作する魔術か?


「卑怯な」

「戦いは基本何でもありだぞ、マオ」


こんな魔術を隠し持っていたとは・・・。


【ネライウチ】


俺は何歩か後退して椅子に登り、テーブルの上を駆ける。


他の探索者から文句、や喝采?が飛んできたが、今は気にしてられない。


【スウィッチ】


操られた二人の探索がちょうど俺の所に来た時にテーブルを消して俺の前面に出し彼らにぶつけてそのまま横に避けた。

二人はテーブルにぶつかり転んでそのまま動かなくなった。

息はしているので問題はなし。


このぐらいで大怪我することもないだろう。

おそらくあの魔術はそれほど効果が長続きしない。


ヨルガの方を見る、まだ彼女は止めるつもりがないようだ。このままではジリ貧だな。

あんな魔術を連発されたら直ぐに捕まる。


俺は速攻で決断して真っ直ぐ前へと進んだ。


「特攻か?」


【ネライウチ】


テーブルの上にある色々なモノに触りながら、魔術を行使してそれらを全てヨルガの元に放った。


ヨルガは向かってくる全てを捌いて俺に相対する。距離は十分縮まった。このまま突っ込む。手を伸ばせば届く距離にヨルガは居た。


【スウィッチ】


魔術を使いあと少しで手が届くと思った時、

いつのまに魔術を行使していたのか、女の探索者が俺とヨルガの間に入ってきた。

ヨルガに使うつもりだった魔術は関係ない探索者の服を剥いてその力を失った。


「うわっ!?」


俺はその探索者にそのまま組み敷かれた。


「私の勝ちだな、マオ」

「それはどうかな?最初から二段構えだ」


俺は諦めていない。

箱を操りヨルガの背後へと移動させ、彼女の背中に優しく当て魔術を行使する。


【スウィッチ】


今日の戦場で【ネライウチ】は体の一部として発動した。

なら【スウィッチ】の方はどうか、試したことはないが俺はイケる気がしていた。


狙い通り魔術は発動しヨルガの鎧下を脱がし、それが俺の手元に移動する。

ヨルガは肌着一枚になった。


「・・・あと一枚だったんだけどな」

俺は探索者に組み敷かれたまま負けを認める。

「いいや見事だ、満点をやろう」


ヨルガはいい汗をかいたと言いたげなヨルガの屈託のない笑顔を浮かべていた。

それを見て俺はなんでこんな事をしていたのだろう?と冷静になって思った。


「二人とも出て行って下さい」


俺とヨルガは探索者組合で暴れた結果、受付員に追い出された。


迷惑かけてすみませんでした。

酒は適度に飲まないとな、といつものように俺は反省するのだった。




「家に来ると良いのです」


探索者組合を追い出された俺達はキャミコの好意を受け取って彼女の家にお邪魔した。


キャミコの家は以前リンネと共に迷って辿り着いた雑貨屋の近くにあった。

案内されるまま玄関を進み、そのまま階段を上る。家には他に人が居なかった。

おそらくキャミコは一人で暮らしているようだ。


「ここなのです」


部屋に着くと扉を開ける。

その中には全員で眠れるくらいの大きなベッドがあった。そしえメトとリンネをベッドの上に放り投げた。


「ベットがここにしかないので、みんなで寝るです」


メトとリンネは既に目を瞑って意識を失っていた。この一人と一匹は俺とヨルガが運んで二階へと連れて来た。


「おやすみなさいです」


キャミコも限界だったのか、ベッドへするりと入り込んだ。


全員で寝るのもどうかと思ったが、俺も今日は疲れていて、睡魔に襲われていたのであまり深くは考えなかった。


まぁいいか。と思いながら俺もベットに入ろうかとした時に「ちょっと待て」とヨルガに止められた。


「ん?何?」

俺はヨルガの方を見た。

「私に勝った褒美をやろう」

「何かくれるのか?」

俺が働かない頭で質問すると、ヨルガはガバッと服を脱いで


「見てもいいぞ」などと言いながら一糸纏わぬ姿を俺に披露した。


窓から入る光は月明かりのみ。

だが全く見えないわけではない。シルエットだけのものが目が順応していき、細かい部分まで露わにしていく。


「・・・・何で脱ぐんだよ」

「褒美だと言っただろ?」


ここで嬉しがるのも癪に触るので、俺はなるべく反応しないようにした。


「お前、見せたいだけだろ」

「それもある」


あるのかよ。

この前後悔したばかりだろうに。

明日も大変だろうな。

ヨルガは余程体に自信があるようだ。


「見たかったのだろ?あんなに脱がせようとしていたではないか」

「あれは勝負だったからだな」

「ならば私以外が良いのか?しばし待て、ほら脱げ」


ヨルガは俺の反応が鈍いとみるや、とんでもないことを仕出かし始めた。


寝ているメトとキャミコの服を脱がしてから毛布をめくって、彼女達の体を露わにしていった。俺の目はもう暗闇に順応していてメトとキャミコの裸を目に焼き付けてしまった。


「ほら褒美だ、どれが好みだ?」


殺されるの俺なんだけど、やめてよ。

喜ぶよりも先に恐怖が来た。

どうする?

・・・うん、忘れよう。

「みんな好みです。じゃあ寝よう」

俺は色々と面倒になり思考停止した。

「お前は反応が薄いな?男として大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫」

何かを考える前にもう寝てしまおう、と俺はベッドに入ろうとする。

「みんな裸なのだから、お前も脱げ」

「はいはい」

俺は思考を放棄している。

だからヨルガに脱がされるままにして全裸になるまで剥かれた。

「うむ、もっと鍛えた方が良いな」

ヨルガは腕や腹や胸を無遠慮に触ってきた。

触るな、色々と考えないようにしているんだから。

「もう寝ていいかな?」

何も考えない、何も考えない。

「よし寝るが良い」

ヨルガの許可が出た。

あとは気絶してしまえば、明日の俺に全てを任せることができる。


「はい、おやすみ」

「また明日だ」


ベッドは柔らかかった。

あと隣からはいい匂いなどせず酒の匂いしかしなかった。

俺は睡魔に身を任せて泥のように眠った。

そうしてこの騒がしい夜は終わりを迎えたのだった。

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