第24話 戦闘準備
「まだここに来ていない奴らもいると思うがもうあまり時間もない、だから聞いてくれ」
探索者の人数が百五十を超えたぐらいで一人の探索者が前に出て話を始めた。
短髪の赤髪が目立つ男だった。
身長は俺よりも少し高い。
金属の軽装鎧を身に付けていて、片手には剣をもう一方の手には丸い盾を装備していた。
「私は青銀級探索者のモダン。【赤鎖】というパーティーに属している。今回の緊急依頼の統率を任された人間だ」
モダンは簡単な自己紹介をし、探索者達の注目が集まり始めたのを見計らって話の続きをを口にし始める。
「ここにいる皆は緊急依頼でここに来てくれたものだと思う。私は道中、受付員や他の探索者に話を聞き情報を集めた。それをここにいる皆に伝えたい。現在、リズベルに来襲してきている魔物の名前はバヴヴ、たった一種類の魔物だ。リズベル周辺で探索者をしている者ならばどういう魔物かは知っているだろう。奴らは一匹ずつならば大したことはないが、集団で襲ってくる厄介な魔物だ。しかも今回は数が非常に多い。おそらくバヴヴの本来の住処である雲の森で何かが起こったのだろう」
「その原因が何かはわかっているのか?」
皆が聞きたいであろうことを一人の探索者が尋ねた。
「いや、それはわからない。しかしわからなくとも対処はしなければならない。不幸中の幸いといえば良いのか、その異変そのもの、おそらくは魔物だろうが・・・その魔物は今回のリズベルの来襲に直接は関わってはいないようで姿は見えない。だからバヴヴだけを退けーーー否、討伐すれば問題は解決できるものだと私も探索者組合も同様に考えている」
リズベルにいる全ての者にとって少しばかり都合が良すぎる推測ではあるが、こればかりは確認のしようもないのでうだうだ言っても意味はない。
皆もそれに気が付いているので余計な茶々は入れなかった。今はモダンの言うことを信じるしかない状況だ。
「それで方法は?」
話が次の段階に移行する。
「ここに集まった探索者には三つの役割を全うしてもらいたい。一つは主戦力になる砲撃班、これは遠距離の攻撃手段がある探索者にお願いしたい。術師の力は問わない。これは今回の魔物が空を飛び移動するからだと理解してもらいたい」
どれだけ強かろうとその攻撃が届かなければ意味はないということか。
「もう一つはその砲撃班を護る守護班。守護班には今回の討伐の要である砲撃班が魔物に襲われない様に護衛を頼みたい。この班に入る探索者は二級魔術師以上か、防御系の魔術を持っている人間に限る」
護衛が弱くて突破されましたというのではお話にならないからな。
制限を設けるのは理解できた。
「そして最後は治療班だ。この班には砲撃班や守護班の術師が万が一倒れてしまった場合にその術師を回収して回復魔術師や探索者組合が用意した回復薬などで治療を施して貰いたい。それと前線に弓矢などの補給物資も運んでくれ」
俺が入るのは治療班か。
後ろの箱を見る。
こいつの出番が来なければいいが・・・。
「ーーーよく考えながら聞いてくれ」
最後にモダンは深く呼吸をして言葉に力を乗せるように話し出した。
「探索者組合が緊急令を出して住人の避難を促してはいるが、おそらく街の避難は間に合わない。だから住人には屋内に居てもらうことになるだろう。今はそれぐらいしか取れる手段がないからだ。市壁の中にバヴヴを通せば少なくない犠牲が出るだろう。その災厄を未然に防げることが出来るのは私達探索者だけだ。皆にはこの街を守る為に奮戦を期待したい。勿論私も先頭で戦うことを約束する。この街を守るぞ!以上だ」
モダンの檄で探索者達は準備を始めた。
うぉぉぉぉと、叫んだ者達もいた。
恐怖を消し、気合を入れ戦うために。
声で空気が揺れる。
俺はただ圧倒された。
探索者達一人一人が街を守るのだと伝わってきた。
「うぉぉぉぉぉぉおおお」
気づいたら俺も叫んでいた。
怖さは消えたとは言えない。
だが俺でも少しぐらいは役に立てるかもしれない。単純だがそう思うことにした。
モダンの指示通りに探索者は砲撃班、守護班、治療班に分かれていった。
メトは砲撃班、ヨルガは守護班に。
そして俺とキャミコは治療班に配置された。
荷車で探索者組合がかき集めた回復薬が運ばれてくる。回復魔術師の数はやはり少ない様で治療をするとしたらこれが要となるだろう。
回復薬などの物資を主導して運んでいるのは探索者組合の専任探索者だ。
専任探索者とは探索者組合の依頼しか受けない探索者で、今回のような緊急依頼や他の探索者の素行調査、塩漬け依頼の処理などがある。あとは初心者の探索者の教練などを行なっている。
その専任探索者から回復薬やその他物資の入った木箱を受け取り中身を確認して数などをチェックする。それから魔物との戦場予定地に分散配置するのが今の治療班に与えられた役割だ。
その中で俺とキャミコは荷車に乗った木箱を開けて中身を確認していた。
「バヴヴはどういう魔物なんだ?」
「知らないのですか?」
回復薬を見ながら俺はさっきのモダンの演説でわからなかった部分についてキャミコに質問していた。
「ああ、本当はあの人に聞きたかったが、流石にあの雰囲気の中で質問はできなかった」
「それは、仕方ないのです」
「バヴヴは果物に擬態する蟲型な魔物なのです」
「じゃあ小さいのか?」
「このぐらいなのです」
キャミコは手を広げて大きさを表した。
「デカイな」
虫なのに人の頭よりも大きいのか。
「雲の森の魔物は大型の魔物も多いと聞くです。だから蟲型の魔物でも大きいのかもしれないです」
「雲の森ってどんな場所なんだ?」
「雲の森は赤銅級探索者になってようやく入ることが許される場所なのです。リズベルの南東にあって踏破率は二割程。最奥にはまだどんな探索者も辿り着いたことはないのですよ。赤銅探索者でも雲の森に入れば二人に一人は戻って来られないみたいなのです。探索者は還らずの森と呼んでいるのです」
俺はキャミコから曇の森の話を聞いて絶対に行きたくないな。と思った。
「だから私は入ったこともなくて予定もありませんです。だからこの話も又聞きでしかないのですよ」
「そんな危険な場所がリズベルの近くにあるのか・・・」
「雲の森の魔物はほとんど外に出て来ませんから今回のような例外を除けばそこまでの危険はありませんです」
「そうなのか」
よし、雲の森には行かないでおこう。と俺は決心を固くした。
「確認は済んだの?マオさん」
俺とキャミコが話しているとファニが話しかけて来た。
ネットの姿はない。
あいつは防御系の魔術が得意だと言っていた。だから守護班に配置されたのだろう。
「ああ、済んでる。ここにある回復薬の数は全部で32本だ。」
「私が他の場所で確認した数と変わらないね。木箱一つにつき32本なのかな?」
盗まれないようになのか俺達には数を確認する様にとお達しがあった。
後から誰が何本使ったのかも報告の義務があるようだ。
換金対策か?
こんな時にそんなことをする奴がいるとは思いたくはないが、悪魔に唆される人間ってのはどこにでもいる。
「それで、これはなんなんだろうな?」
荷車には回復薬の他に弓矢なども乗っていたが、石が積まれていたのが何故なのか俺にはわからなかった。
「投石用の石なのです」
「投石用?」
「役に立つかどうかは謎なのです。でも一応の攻撃手段かと思われるです。何せ相手は空の住人なのです」
「なるほど」
ここにいるのは遠距離攻撃の出来ない探索者達だ。しかし戦えないわけではない。
しかしそれも届かなければ意味は無いものだ。だからこの石というわけだ。
この石の意味は、これを投げて少しでも敵の数を減らせ、との探索者組合からの有難い命令だった。
「来たぞ!!」
それは突如として始まった。
俺が石について考えて居た時だった。
一人の探索者が叫ぶと同時にその場の雰囲気が一気に引き締まった。
俺達は声のする方へと目を向けた。
そこには空を覆うバヴヴの大群がいた。
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