第23話 緊急依頼

「よぉ。脱ぎ女と脱がされ女」


俺がキャミコと臨時パーティーを組んだ二日後。探索者組合の酒場にメトとヨルガが顔を出した。


「アンタは本当に氷漬けにされたいのかしら?そうよね?そうなのよね?だったら今すぐそうしてあげるわ」

「マオ、私も今のには腹が立ったぞ」


俺が揶揄うとメトとヨルガは俺を睨んだ。

目が怖いよ?二人とも?

可愛い顔が台無しだぞ。


「元気一杯みたいで嬉しいよ、俺は。また今日から宜しく〜」

「アンタの顔を見てるとぶん殴りたくなるわ」

「殴っちゃやーよ」

「マオ、本当にやめろ。私も斬りたくなってくる」


二人はまだ俺に御冠らしい。

これ以上の弄ると本当に殴られそうなので、また今度にしておこう。


「すまんすまん、おかえり二人共。とりあえず飯でも食べて落ち着け。俺が奢ってやろう」


すると揶揄われた仕返しなのか二人は俺が座っていたテーブルにドカッと座り、酒場の店員に食べきれないぐらいの量の料理を注文をし始めた。


ストレス溜まってたんだね。


少ししてテーブルの上には乗り切らないぐらいの料理が運ばれてきた。


「ちゃんと食べるんだろうな?」

「食べるわよ」

「私もお腹は空いてるぞ」


猫探しの時の報酬はこれで飛んでいくんだろうな。と俺は思いながらフォーク握った。


それはそんなテーブルの上の大量の料理に手をつけている途中で起こった。


「緊急依頼です!!」


乱暴に探索者組合の両開きの扉が開かれ、明らかにいつもとは違う様子の受付員が慌てて駆け込みながら叫んだ。


それで食事をしていた俺達の手は止まる。

フォークに刺さっていた肉が床に落下した。


時を止めたのは俺達のテーブルだけではなかった。

五月蝿かった酒場は一気に静かになり、席に座っている探索者は顔つきが変わったのが分かった。探索者組合にいる探索者全員が次の受付員の言葉を聞き逃さないように耳を傾けていた。


「魔物の氾濫が発生、場所は雲の森近郊、数は千匹以上、現在、街に向かって侵攻中、推定到達時間は間も無くです。申し訳ありませんが探索者の皆様には強制的に討伐へ参加して頂きます。では各自準備お願いします。それが終わり次第、正門にお集まり下さい」


受付員が滞る事なく状況説明を終えた。


ガタッ。


次の瞬間探索者組合全てが一体の生物のように一斉に動き出した。


「いくぞ」


俺達の中ではヨルガが最初に立ち上がった。


「俺もか?役に立たないのに」


俺は緊急依頼が初めてだったのでまだ状況を理解していなかった。


「当たり前でしょ?探索者は全員参加っていってたじゃない?それに名を上げるチャンスよ」

「魔物に倒される可能性の方が高そうなんだけど」

「いいから来なさい」

「え〜」

「アンタが来ないとリンネも来ないでしょ?」

そっちが目当てか。

「キュイ?」

こんな可愛いくても俺より強いもんな。

「マオいいから早く立て。出遅れるではないか」

「わかりましたよ。行けばいいんだろ?行けば」

「最初からそうすればいいのよ」


俺達は立ち上がり、他の探索者と同じように行動を始めた。




リズベルの正門前。


街の外、市壁の側に探索者達が集まっていた、そこに居たのは人、人、人。

全て緊急依頼で集められた探索者達だった。

人数は百を優に超える。

おそらくこの街の探索者がほとんど集まっているのだろう。

見たことも無い探索者も大勢居た。

そしてまだ続々と集まって来ている。

いつも探索者組合で飲んだくれている皆が今日ばかりは険しい表情をし、物々しい雰囲気を纏っていた。


「死にませんように。死にませんように。死にませんように。死にませんように。死にませんように。死にませんように。死にませんように。死にませんように。死にませんように。死にませんように。死にませんように」


俺はその雰囲気に当てられて、これからの戦いで死なないようにひたすら祈っていた。


「アンタ怖いのよ、その呪いみたいなやつ今直ぐに止めなさいなよ」

「嫌だ。だって俺の方が怖いから」

「マオ大丈夫だ。人はそう簡単には死なない」

「慰めてくれてどうも。それでも怖いものは怖いの」

「はぁ、まったく情けないやつ」

「いつも通りのマオだな」


俺達三人が益体も無いことを話していると近づいてくる人影が一つあった。


「あれ?マオがいるです」


それは先日世話になったキャミコだった。


「キャミコじゃないか。うぃっす」

「うぃっすです」


キャミコにこの恐怖が移ったら可哀想だと思った俺は助かりたい一心で呪詛の様な言葉を吐くのを止め顔色を悪くしながら努めて笑顔で話した。偉いだろ?


「その子、誰よ?」

「私も記憶にないな」


俺がキャミコと挨拶を交わしているとメトとヨルガが近づいてきた。


「お前らが居なかった時に世話になった知り合い?友達?そんな感じの子だ。なぁキャミコ?」

「は、はい、友達なのですっ」


少し動揺した感じでキャミコは返事をした。


メト達が近づいてくると少し怯えたようにキャミコは俺の背後に隠れた。

人が苦手なのか?

俺の時は自分から話しかけてきたのにな。


「私、警戒されてる?」

「メトなら仕方ない」

「どういう意味よ!」

「言っていいのか?」

「言ってみなさいよ」

「お前は基本的に不機嫌そうで顔が怖いからだ」

「そんなことないわよっ!」

「あるよ?気づいてなかったのか?」

「私の顔が怖いのは大体アンタのせいだけどね」

「笑顔の練習しよ?」

「その笑顔凍らせたい」


俺とメトが言い合っているとヨルガはささっと俺の背後を取りキャミコの前に立った。


「私の名前はヨルガだ。マオの仲間だ、よろしく頼む」


そしてヨルガはキャミコに近づいて握手を求めていた。


「よろしくお願いするです」


キャミコも握手を返した。

うん。良い感じじゃないか。

この二人は仲良くなれそうだ。


「なんでよっ!」


メトはそれを見てまた怒っていた。

本当にこいつは元気だな。

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