第19話 非難轟々

「どりぁぁぁああああああああ」

【アイス・ショット】

「キュイキュキュイ」



ジャモスの討伐に失敗した俺は草原の中にある木陰から二人と一匹の活躍を見守っていた。がんばれ〜。


彼女らは最初の内はそれぞれ一体一と戦っていたが、その内に全員で息を合わせてジャモスを効率的に討伐し始めた。

穏やかな大草原に戦闘音が轟く。


そうして時が過ぎ、次々ににジャモスが倒れていった。


俺とアイツらは何が違うのだろう?

経験か?才能か?それまた運か?

そんな無意味な事を考えている内に、それは兎も角、腹減ったなと思った。


まさか凹んでいると?

いやいや俺はこんなことで落ち込んだりはしませんよ。

だって自分の程度は知ってるもの。

王都でホームレスを一体何年やったと思っているんだ?

孤児院は追い出され、働き口からも追い出され、猫に餌をねだって生き永らえてきた人間だよ?

今更ヘラってどうなりますか?って話ですよ。


大体大抵の悩みなんてね。

腹が一杯になればどうとでもなるもんなんだよ。だから気分が落ちそうになったらご飯を食べる。これが鉄則です。


「ではいただきます」


自分以外の人間が働いているの見ながら酒を飲む。これ以上の贅沢は中々ありませんな。

俺は二人と一匹の奮闘を肴にして朝食を酒付きで楽しみ始めた。




「アンタってたまに信じられない事をするわよね」

一人で宴会を開いていたのが気に食わなかったのかメトは俺の元に戻ってくるとこめかみに怒りマークを装備して文句を言い始めた。


「まみが?」


俺の口にはまだ食べ物が詰まっていた。

いきなり話しかけて来るからだぞ。


「何がって、何で一人でご飯食べてお酒を飲んでいるのよ」

「だって朝早く起こされてご飯食べてなかったし、お腹空いたし」

「何の役にも立ってない奴の台詞とは思えないわね。私だって朝からまだ何も食べてないわよ」

メトは拳をぎゅっと握っていた。

食事くらいは済ませてきたのかと思っていた、悪い事をしたな。と考えながら

「じゃあ食うか?」と俺は食べかけの肉をメトに差し出した。


「ぶっのろす」

「落ち着けメト。怒りすぎて言葉が話せてないぞ」

飛びかかろうとしたメトをヨルガは羽交い締めをして抑えてくれていた。

「マオ、流石に私もそれはないと思うぞ」

「キュイ〜」

ヨルガとリンネまでメトと同じ意見のようだ。目が呆れていた。


「なんで?」

「何で?ですって?!アンタはさっき討伐に失敗したのよ?私達の戦いを参考にする為に見て学ぶとか反省するとか色々することあるでしょ」

「そうだぞ。剣の振り方とかな。それに力をつける為に筋トレするのもいいぞ。筋肉は良いものだ」

ヨルガの筋肉談義が始まる前に俺は口を挟む。


「いやいや、お前らの戦い方は俺にとっては参考にならないし、筋肉つけるならせめて朝飯を食べてからの方がいいだろ」

「ああ言えばこういうわね。反論するんじゃないわよ」

「わかってるよ。落ち込んでたら良かったんだろ?俺はダメだ的なーーーでもそれは無理だよ。俺は弱い、んなこと最初からわかってるからな!」

「お前はなんて清々しくそんなダメな事を言うんだ」


ヨルガは俺の自分を弱者と断ずる堂々とした発言に逆に驚いていた。


「わかったわ。反省しないのはまだいい。でもご飯を食べるのは違うでしょ!?」

「だから、何で?」

「アンタは今日働いてないの!働かざるもの食うべからず!知らないの?」


「はいはいはいはい。その言葉は聞き飽きたわ。王都でも何回も言われたし、でも俺はその言葉にはこう応えることにしてる。馬鹿ですか?とな」


「なんですって!」


「お前な。働かなくても腹は減るんだよ。腹が減って飯が目の前にあったら食べるだろ?普通。じゃあ逆に働いたら絶対に飯は食べなきゃいけないのか?腹が空いてなくても?道理に合わないだろ?そんなの。飯を食べる理由はな、ただ一つだ。腹が減ったから食べるんだよ!これが唯一正しい答えだ。わかったか!」

ついつい熱くなって語ってしまったではないか。メトがおかしな事を言うからだぞ。


「アンタがダメな奴だってことはわかっていたつもりだったけど認識を改めた方が良さそうね」

「少しは尊敬したか?」


「このクズッ!初めての討伐だと思って優しくしてあげてたのに。もうやめるわ。ほら戦って来なさい。じゃないと氷弾で刺し貫くわよ」

やばいッ。メトさんキレてる。

これは不味いですよ。

どうする?逃げるか?

いや無理だ。俺よりこいつらの方が足は速いし帰り方もわからない。

そうだな・・・良し。


「わかった。お前の言う通りにすればいいんだろ?」

こうなったら全部むちゃくちゃにするしかないな。


「あら随分と物分かりがいいじゃない」

「メトの言葉で目が覚めたんだ」

「なんか嘘くさいわね」

「串刺しは勘弁ってことで」

「痛いのは嫌いかしら?」

「当たり前だろ」

「じゃあ反省する?」

「するする」

「本当?」

「本当だって・・・でもその前にこの飯を食べたらどうだ?俺はもう食べたからさ。メトもヨルガもリンネも腹減ったろ?ここに一杯あるから、な?このまま無駄にしても勿体無いし」

「そうね、でアンタはどうするのよ?」


「一人で先に食べた罰としてお前達が食べてる間に給仕するよ。それで皆が食べ終わったら戦いに行ってくる。だから座ってくれ」

「少しは反省する気になったみたいね。ヨルガもリンネも座りましょう。こいつが給仕係として何でもしてくれるらしいから」

「そうか?では座るとしよう」

「キュイキュイ」


ふっ。馬鹿共め。騙されおってからに。


俺はメトのお望み通り給仕係に徹した。

言われるままに食材を用意し、火を使って調理をし絶妙なタイミングで料理を出して全員を楽しませた。


そしてメトとヨルガの飲み物の全部にちゃんと酒を少量ずつ混ぜて少しずつ濃度を上げていった。


さぁパーティーの始まりだ。

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