第15話 違い
【スウィッチ】
リンネは俺の魔術での移動が気に入ったらしく何度もせがんできた。
俺が魔術を行使して反対側に移動すると俺の体を土台にしてジャンプして素早く元の手の平の腕まで戻る。
【スウィッチ】
それを何度か繰り返す遊びをしていた。
そうやって遊んでいたらリンネも疲れたようで今は俺の膝の上で眠っている。
そんなリンネを見ていてふと思ったことがあった。
リンネは死んでから復活して俺に懐いた。
おそらくそれは箱の機能である。
それならば俺が自分に懐くという事は無いにしても箱の中で傷を治したメトとヨルガは大丈夫なのか?
気持ちの変化などはないのか?
そんな事をふと考えてしまった。
メトとヨルガを見る。二人に変化はない。
怪我が治ってから何度も話しているがメトは相変わらず俺に対して冷たいし、ヨルガは丁寧ではあるが懐いているといった感じではなかった。
でも心の内はわからない。
待っていても何も答えは得られないので俺は二人に尋ねてみることにした。
「メト、俺のこと好きになったりしてないか?」
「アンタ自分の事理解してる?鏡を見てアンタのクソみたいな半生を一日掛けて思い出してからもう一度同じ言葉が吐けるなら聞いてあげる」
「助言をありがとう」
「どういたしまして」
メトの方には何も変化がないことはわかった。次はヨルガに問うことにした。
「ヨルガは俺のこと好きか?」
「普通だ」
返答は一言。
ヨルガの方は好意も悪意もなさそうだった。
ついでに興味もなさそうだった。
でもメトよりはマシかな。
当然二人とも脈はなさそうだ。
「アンタ何なの発情期?」
「違うわ。ほらリンネがこうなったから、怪我を治した時に同じような影響が出てないかと思ってな」
俺が女に飢えてこんな事をした訳ではないとメトに説明する。
「そういうこと。私は今まで通りアンタにムカついているから大丈夫よ」
「私も問題はない」
「なんでお前にキレられてんの?俺」
「私だけリンネに触れないからよ」
「それ俺の所為じゃねーだろ」
「八つ当たりよ!」
「わかってるならやめろよ。理不尽かっ!」
メトの八つ当たりの原因となっているリンネはスヤスヤと俺の膝の上で眠っていた。
リンネとこの二人の違いはなんだろうか?
リンネだって最初は馬車を襲ってきた魔物の一匹で敵愾心はメトやヨルガよりも抱いていた筈だ。二人にだって殺意までは向けられてはいないのだから。
だが箱の中に入り蘇ってからはこの懐きようだ。幸せそう寝ていて可愛い。
これはどう考えてもおかしい。
傷が治ったのは一緒。
違いは治る前の元の状態か?
生きてる状態からなのか死んでる状態からなのか。違いは死からの復活なのか?
俺はリンネを見ながら呟いた。
「死から蘇ったらこうなるのかもな?」
箱に備えられた魔術は未知のもの。
だからどんな魔術が扱えるのかは不明。
復活の際は生き返ると同時に治療を受けた者が箱の持ち主に魅了される機能が付いている可能性がある。
「この箱で私が蘇ったらリンネみたいにアンタに擦り寄るってこと?冗談でもやめて!」
リンネを見て自分が俺に纏わりつく姿を、想像したのか悲鳴を上げるメト。
めちゃくちゃ嫌がるじゃないですか。メトさん。そんなに嫌ですか?
でしょうね。
「どうしようもない時以外の使用を控えるべきね。勿論実験も禁止」
「そうした方が良いかもしれんな」
俺の予想を聞いた女性陣は直に結託した。
俺、嫌われすぎじゃね?
「二人は王都に知り合いぐらいいるだろ?リズベルに着いたら手紙がなんかでこの箱のこと、噂でもいいから情報集めてくれないか?」
「なんでそんな面倒な事しなきゃならないのよ。使わなければいいのよ」
「だとしても死にかけてたら使うだろ。それで自分が俺に擦り寄るところ想像してみろ」
「・・・わかった。やるわよ」
リンネを見てからメトは頷いた。
「ヨルガも頼めるか?」
「あまり役には立てないと思うが努力はしてみよう」
「アンタは何もしないのかしら?」
「俺の知り合いか?そもそも俺に協力してくれる奴が少ないし、居たとしても孤児院関係か浮浪者ぐらいのもんだぞ」
「アンタって本当に役に立たないわね」
「ほっとけ」
「友人などはいなかったのか?」
「いないわよ」
メト、なぜお前が先に答える。
「猫に聞ければ答えてくれたかもね」
「どうして猫なんだ?」
「こいつは猫と話せるのよ。魔術で」
「言ってる事がなんとなくわかるだけだ」
「ではリンネがなんと言っているのかもわかるのか?」
「いや猫だけ」
「あんまり役に立たない魔術よね」
「残念ながら王都では大活躍でした」
それで餓死せずに済んだからな。
「ああ、そうだったわね。何せ猫に餌を強請ってたんだから」
「・・・マオ」
「おいメト、ヨルガの中の俺がさらに駄目な奴に更新されるだろ。やめろ」
「大丈夫よ。アンタといたら自然とそうなるから。ね?ヨルガ?」
「どうだろうか?」
ヨルガははっきり肯定はしなかったが、否定もしてくれなかった。
「俺の癒しはリンネだけだな」
俺はこの馬車で唯一好意を持ってくれているリンネの頭を撫でて心の平穏を求める。
「アンタ、人間以外とはうまくやれるのにね」
「俺の心を傷つけて楽しいか?」
「それなりにね」
そんな俺にメトはさらに追い討ちをかけてきた。
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