第18話 変化
僕の眼前にいた兵士の首が吹き飛ぶ。フェイスマスクが外れ、頭蓋骨が割れ、眼球が脳が弾け飛び、
頭が吹き飛んだ兵士の後ろにいた兵士たちは、身じろぎをする。
僕は首から血を吹き出しながら、背中から倒れる兵士の散弾銃を奪い取ると、その銃把を握り、引き金に指をかけた。
目の前には左右に並ぶようにいる兵士が二人。先ほどの心理的衝撃と、飛び散った仲間の組織が目にかからないように片手で防いだことで、銃を構えることができていない。
僕はその右側の兵士の脇腹に銃口を押し付ける。この距離ならば、素人の僕でも外すことはまず無い。
左側の兵士を
散弾はボディアーマーを貫通し、右側の兵士は車内の鉄側面まで吹き飛ぶ。
左側の兵士は胸部が爆散し、両腕が吹き飛び、鉄と接触する音を響かせた。
僕はすかさず、銃把を手放し
僕は崩れ落ちる二人の兵士の背後にいた三人の兵士に視線を移すと、散弾銃を構え直しており、その銃口を僕の方に向けていた。
僕はフォアエンドを前進させ弾をこめて手放し、銃把を握る。と、同時に三人の兵士が向ける銃口の射線から出るように腰をすっと落とし、反復横跳びの要領で、右から左、左から右へと速度を上げながら移動し、一気に接近する。
三人の兵士には、目の前から標的が消えたように見えただろう。銃口が右往左往し、照準が定まっておらず、動揺しているのが目に見えてわかる。
真ん中の一人の兵士を残して、左右にいた兵士の上半身が弾け飛ぶ。理由は言わずもがな、僕が
「ヒィッ・・・」
残り一人の兵士は同僚が瞬時にして肉塊になったことで、もしくは左右でまるで噴水のように血が吹き上がり、その液体を全身に
どの兵士もそうだ。
今まで自分達が『悪魔』を“殺す側”であると信じて疑わず、“殺される側”になることなど
兵士とは名のつくものの、実に傲慢で、呆れるほど情けない連中だ。
真ん中の兵士の散弾銃を蹴り飛ばし、その喉元に僕が持つ散弾銃の銃口を突きつける。
「ま・・・待ってくれ。命だけは・・・!」
僕は有無を言わさず引き金を引き、散弾を咽頭に撃ち込んだ。
『
頭の中の存在が叫ぶ。振り返ると、2メートルほど離れた位置から二人の兵士が銃口を僕に向け、発砲した。
避けられない。
そう直感的に感じた僕は、女児を凶弾から守るため、彼女を僕の体で庇いながら背中でそれを受けた。
僕の背部に燃えるような痛みが走る。
だが、アドレナリンによるものか、すぐに痛みは消え去った。
すぐさま二人の兵士を睨み、頭を吹き飛ばす。瞬間、僕の視界がぐらついた。
体勢を立て直し、散弾銃のリロードをしてすぐに応戦しようとするが、二人の兵士がゼロ距離まで近づき、突撃する。僕の腹部と腰が二つの銃口で挟み込まれ、それぞれ金属の硬い感触が皮膚に強く押し当てられる。
密着させられた銃口から弾が撃ち込まれた。
腰にはまた、焼けるような鋭い痛みだけが感じられ、腹部は痛みとともに
しかし、次の瞬間には敗れたスーツの生地はそのままに、ピンク色のテラテラと光を反射する腸、肌色の皮膚、の順番で瞬時に再生される。
『『悪魔』を殺すための“銀の散弾”か。並の『悪魔』であれば一発喰らえば致命傷になり
頭の中の『悪魔』がまるで兵士を
声の主の言うことをそのまま受け取るならば、腹部の傷の再生はこの『悪魔』の持つ力であるらしい。
となれば先ほどの背中に受けた銃創も、アドレナリンではなく、傷が回復したことで痛みが消えたのか、と僕は独り合点がいった。
驚異的な
そして、受けた傷を瞬時に回復させる再生能力。
僕の身体は頭の中の『悪魔』のものにすげ変わっている。
もはや『人間』とは言えない存在へと僕は変化してしまっていることを、これほどまで多くの事象が僕の身体で起こっているため、認めざるを得ない。
兵士たちは確実に致命傷となるであろう
僕はそんな兵士のうち、三人の上唇から上を破砕する。
『
声の主が呟く。
僕は前方、後方車両からの敵の数を直立したまま、冷静に把握する。
後方車両からは見える限り、相も変わらず『悪魔』を撃ち殺しながら二十人はいようかという兵士たちがこちらに接近している。
前方車両からは五名。
後方車両にいる『悪魔』たちを見殺しにするのは心苦しいが、明らかに前方車両の兵士を突破し、制御部に到達する方が合理的だ。
突如として鳴った発砲音とともに、僕の右目の視界がブラックアウトする。僕は咄嗟に女児の頭を散弾銃を持った右手で
と、同時に僕は発砲した兵士を左目で見る。
瞬時に兵士の鼻から上が散った。
僕は女児の顔に散弾が当たっていないか、視線を落とし、右手首で娘の眉上に一直線に揃えられた前髪をかき上げる。幼女の頬に僕の血がポツポツと二敵落ちた。
「おにいちゃん。目が・・・」
女児が泣き出しそな顔で言った。
「大丈夫だよ。すぐ
対して僕は優しく微笑む。
糸が紡がれるように僕の傷が再生していく。
左目だけの狭い視界が、ブワッと広がったことで、右目の修復が完了し、両目の正常な視界を取り戻したことを実感する。
両目で見た女児の顔は、恐怖に怯えたものから、僕の傷が
「あと、もう少しだからね」
僕は女児に向かってそう言うと、再び前方車両に向けて駆け出した。
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