18.


 前日の夕刻。


「し……神明さん!大変です!!」


 乱闘から逃げてきた男が神明組に戻ると神明がいる部屋に急いで駆けて行った。


「どうした?」


 男の様子に神明が尋ねる。


「じ……実は……」


 男がそう言って先程の出来事を伝える。


「……そうか」


 神明が男の言葉に低い声で言う。


「おい、お前ら……」


 神明がその場に集まっている手下たち全員に声を掛ける。


「じきにここにも警察が来る……。今のうちにここから出ろ……」


 神明がゆっくりとした口調でとそう言葉を綴る。


「で……ですが……」


 手下の一人が口を開く。


「捕まるのは俺だけでいい……。お前ら……今度はまっとうに生きろ……」


 神明が落ち着きを払った声でそう言葉を綴る。


「神明組は解散だ……」


 神明はグラスに入っているブランデーを飲みながら言葉を綴る。


「神明さん……」

「そんな……神明さん……」

「ここで解散だなんて……」


 手下たちが涙を流しながら口々に言葉を綴る。


「元気でやれよ……」


 神明が暖かな眼で一人一人の手下を見渡すとそう言葉を綴る。


「俺……神明さんに付いて行きたかったです……」

「神明さんに助けてもらった命……無駄にしないっす……」

「神明さん……」

「神明さん……」


 手下たちが神明との別れを惜しむように口々にそう言葉を綴る。


「行け……」


 神明が静かにそう言葉を綴る。


 手下たちは一人一人お辞儀をすると、その場を出て行った。




「……じゃあ、手下たちは……」


「あぁ……、全員追い払ったさ……」


 神明の言葉に本山が唖然とする。


「……連れて行け」


「はい……」


 本山の言葉に杉原が神明に手錠をかける。そして、神明を車に乗せて警察署に向かった。




「ん……」


 政明が病院のベッドの上でぼんやりと目を覚ます。


「目が覚めましたか?」


 奏がそっと声を掛ける。


「お……れ……」


 まだ薬でぼんやりしているせいか、政明は自分に何が起こっているのか把握していない様子に見える。


「弾は無事に摘出したそうですよ」


「……そうだ!絵梨佳!……痛っ!!」


 政明が何かあったのかを思い出して、体を起き上がらせようとした拍子に痛みが走り、声を唸らす。


「まだ安静にしていてください!傷に響きますよ!!」


 奏が慌てて声を上げて政明を制する。


「え……絵梨佳は……?」


 政明が恐る恐る聞く。


「大丈夫です。怪我はありませんよ……」


 奏が優しい口調でそう言葉を綴る。


「絵梨佳はどうしているんですか……?」


 政明が顔を奏に向けながら心配そうにそう問いかける。奏はその言葉に答えようかどうか迷ったが、口を開いた。


「絵梨佳さんは、今は警察の中にある独房にいます……」


 奏の言葉に政明が辛そうな表情をする。


「俺の……せいだ……」


 政明が小さく呻くようにそう言葉を吐く。


「どうして絵梨佳さんに麻薬を渡したのですか……?」


 奏が政明に問う。


「繋ぎ止めておきたかったんだ……」


「繋ぎ止める?」


 政明の言葉の意味がよく分からなくて奏が聞き返す。


「絵梨佳を……絵梨佳を誰にも渡したくなかったから……だから……麻薬を使ってでも、俺の傍から離れられないように繋ぎ止めておきたかったんだ……。絵梨佳を……誰にも取られたくなかったんだ……」


 政明がそう言葉を綴りながら涙を流す。



 それは、一つの愛情表現かもしれない……。


 間違っていると分かっていても、愛故の行動だったのだろう……。



「絵梨佳さんとは、どうやって知り合ったんですか?」


 奏がそっと問い掛ける。


「絵梨佳と会ったのは……」


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