17.


「……え?てことは……あんたは……」


「俺が絵梨佳の父親だ……」


「!!」


 徳二の言葉に絵梨佳は驚きが隠せない。


「静香が身籠った時、俺はまだ十八だった。静香の方が年上だったから静香はもう働いていた。だが、俺はその時はまだ若すぎて子供を育てるという事が重荷だったんだ……。静香には子供を堕ろして欲しいと頼んだが、静香は産むと言って聞かなかった……。だから、俺は逃げた……。そして、その時の事を忘れかけた頃、静香が起こした事件をニュースで知ったんだ……」


「じゃあ……部屋に上げて……話を聞いても警察に連れて行かなかったのは……?」


「娘を……絵梨佳を何とかしてでも救えないかと思ったからだ……」


 徳二の言葉に絵梨佳が何も言えなくなる。



 それは、娘を捨てたせめてもの罪滅ぼしなのか……。


 それとも、生き別れになった娘をただ守りたかったのか……。


 その交差する思いには、父親として娘を大事にしたいと思う気持ちがあったからかもしれない……。


 その方法が間違っていると分かっていながら……。



「すまなかった……。絵梨佳……」


 徳二がそう言いながら涙を流す。


 絵梨佳も目に涙を溜めながら声を殺すように泣いた……。




「……つまり、麻薬を政明に渡したのは政明本人に頼まれたから……ということだな?」


 取調室で本山が新形と向き合うように座り、事情聴取を行っている。新形は観念したのか、政明に麻薬を渡したことを素直に認めた。


「あぁ……。何に使うかは聞いていなかったが、政明はどうしても必要だと言ったんでな……。だから、一袋だけ持ち出して政明に渡したんだ……」


「……持ち出したことが上にばれたら殺されるかもしれなかったのにか?」


 本山が新形の言葉に呆れた様子で言葉を綴る。


「……目に入れても痛くない可愛い甥っ子にあんなに必死に頼まれたら、聞いてあげたくなったんですよ……」


「甥っ子?」


 新形の言葉に本山が聞き返す。


「えぇ……。政明は俺の甥っ子です。姉の子供なんですが、政明の父親が事件を起こしてしまって、姉は世間から非難されるようになり、その事に耐えられなくなって自殺したんです。そして、一人残された政明を私が引き取ったんですよ……」


 新形の言葉には、親のような愛情が込められているようにも感じる。間違っているとは分かっていても、可愛がっている甥っ子の頼みを断れなかったのだろう……。新形の表情はそんなことを感じさせるような雰囲気が漂っていた。


「そろそろ行こうか……」


 本山はそう言うと、新形を連れてその場を出て行った。




 翌日、本山と杉原は何人かの警察官を引き連れて神明組を訪れた。


「……行くぞ」


 本山の言葉に杉原たちが頷く。そして、なだれ込むように神明組の屋敷に入り、神明がいる奥の部屋へ行く。


「警察だ!全員大人しくしろ!!……なっ?!」


 本山が叫びながら奥の部屋のふすまを開けて部屋に入ると同時にその異様な光景に声を詰まらす。


「……ようやく、ご到着か……」


 広い部屋には神明だけがただ一人そこにいて、笑みを浮かべながら煙草を吹かしていた……。



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