10.
「翼?!大丈夫?!」
翼の母親が悲鳴を聞いて部屋に飛んでくる。
「……はぁ……はぁ……はぁ……」
翼が必死で呼吸を整える。
何か怖い夢を見たような気がするが、何の夢を見ていたかは覚えていない。嫌な夢ではなく、とても怖い夢だったということくらいしか分からなかった。
「大丈夫?怖い夢でも見たの?」
母親が翼の背中を擦りながら優しく問いかける。
「お粥、作ったけど食べる?」
優しく紡ぐように言葉を綴る。
「……うん……貰うよ……」
「持ってくるわね」
母親の優しさに感謝しながら翼がそう答えると母親は部屋を出ていった。
「……まず、例の掛け子と思われる人と再度接触するわよ。透と奏は引き続き、その公園で掛け子が現れるのを待機して。紅蓮と槙は詐欺グループの情報収集よ」
「「「はい!!!」」」
冴子の掛け声で月曜日からの行動をそれぞれが確認しあう。明日と明後日はお休みなので、ゆっくり休養するようにとの声掛けがあり、その場は解散となる。冴子は引き続き、玄から何か新しい情報がないか聞いてみるということだった。
「はぁ~……。疲れたぁ~……」
家に帰り、夕飯やお風呂を済ませて後は寝るだけとなり、奏はベッドに倒れ込んだ。まだこの仕事を始めて数日なので緊張もあり疲労感が半端ない。
「……最近、物語、書いてないや……」
ベッドに仰向けになりながらポツリと呟く。
「明日は久々に書こうかな……」
そう小さく呟くといつの間にか深い眠りに落ちていった。
「……はぁ?風邪だぁ?」
拓海がそう言いながら呆れ声を出す。
「とっとと治して出て来いよ!分かったな?!」
電話口で拓海が怒鳴りながら声を吐き散らす。そして、電話を切ると、深くため息を吐いた。
「翼の奴、風邪ですか?」
傍にいた宮部が拓海に聞く。
「あぁ。咳もしていたしそうなんだろうな……。全く、使い物にならねぇ……」
拓海が苦虫を噛み潰した表情でそう言葉を綴る。
「宮部、今日の収入はどれぐらいだ?」
「今日はあるジジィから搾り取る事が出来ましたよ。ざっと五百万ですね」
拓海の言葉に宮部が答える。
「まぁ、いい方だな。引き続き頼むぜ」
「はい」
拓海の言葉に宮部が素直に返事をする。
拓海はそれだけを言うと、その場所を後にした。
「あっ!おかえり!拓海!」
拓海があるマンションの一室に入ると、一人の女性が笑顔で拓海を迎えた。
「お仕事お疲れ様。今日も遅くまで仕事していたんだね」
「あぁ。今日は外回りの仕事だったからな。
「はーい!もうお風呂沸いてるから入ってくるといいよ!」
美香と呼ばれた女性がそう笑顔で言葉を綴る。
拓海は美香にはある会社で営業の仕事をしていると説明していた。詐欺を働いていることは一切隠している。だから、美香はそんなことをしているとは知る由もない。拓海がそんなことをしていると知ったら美香はどう思うのだろうか……。でも、拓海は詐欺を止める訳にはいかなかった。
自分のためにも……。
美香のためにも……。
「さっぱりした?夕飯出来ているけど食べる?」
お風呂から出た拓海に美香がそう声を掛ける。拓海は「食べるよ」と言って、二人で遅めの夕飯を食べる。
「今日は仕事休みだったんだな」
夕飯を食べながら拓海がそう美香に話しかける。
「うん。本当は金曜日だから稼がなくちゃいけないんだけど、この仕事ってやっぱり精神的に参るというかね……。客の殆どはやらしい目で見てくるし……、まっ!仕方ないんだけどさ。学歴もまともにないあたしが働ける場所と言えばそれくらいだからね……」
美香がそう言って悲しそうな顔をする。
「美香……」
拓海がそう話す美香に何と言っていいか分からずに言葉に詰まる。確かに自分たちの育った経緯を考えるとまともに職に就けることは少ないかもしれない。
それが世の中の道理……。
「……いつか南の島とか一緒に行こうな」
「うん!楽しみにしてるね!」
拓海の言葉に美香がそう返事する。
(金が溜まったら、不自由のない生活を送らせてやるからな……)
拓海が心の中でそう呟いた。
「……ん~、今日は休みだぁ~……」
朝、ベッドから起き上がった奏が大きく伸びをする。
「今日は物語の続きを書くぞー!」
奏がそう言って自分に気合を入れる。
このところ、物語を書く時間がまともに取れなかったので途中まで書いたままそこで止まっていた。普段の土曜日なら広斗とデートなのだが、広斗はまだ海外にいるので会えるのは早くて来週になるだろう。特殊捜査員になり、これからは休みの日しか物語を書けないので書けるときはなるべく書いて話を進めたいというのがあった。
今書いている物語は心の闇を描いたヒューマンドラマに近いミステリーだ。主人公の少女が心に闇を抱えており、その闇がある一人の青年と出会い、浄化されていく……。奏の書く物語は人の心をテーマにしたものが多く、物語によってはミステリー仕立てにもなっていたりする。コメディや甘々の恋愛と言う物語は書かないが、物語によってはちょっとしたコメディや恋愛を取り入れることがある程度だ。
どの作品も感動を呼ぶものが多く、正式な作家では無いにしろ、ネットに上げるとそれなりの反響はある。中には奏の作品を毎回読んでくれる人もいて、よくコメントをくれる人もちらほらいる。奏の友達も、奏の書く物語をすごく気に入ってくれて投稿するたびに毎回読んでくれていた。中には奏が気付かなかった誤字脱字を教えてくれる人もいて、とても感謝している友達もいるくらいだった。
「……さて、執筆を開始しますか!」
朝食を食べ終えて、奏がノートパソコンの電源を入れる。ウィィーンと音がして画面が立ち上がる。
「……よし!頑張るぞ!」
小さい声でそう言葉を発し、物語の執筆に取り掛かっていった。
「……拓海さん、昨日の売り上げです」
宮部がそう言って、拓海に一万円札の束を見せる。そして、そのお金を金庫にしまい、厳重にロックをする。
「よし、今日もやるぞ……」
「はい」
拓海が目を光らせて、そう言葉を綴る。その言葉に宮部が返事をする。
――――トゥルル……トゥルル……。
そこへ、拓海の携帯が鳴り響いた。
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