9.
奏が電話中の透の服を引っ張り、透に小声で伝える。
「透さん、今公園に入ってきた人なんですが……」
透が電話をしながら奏が視線を向けている方向に自分も視線を向ける。
「……あいつは?!」
透もその人物を見て驚きの声を上げる。
『透?どうしたんだ?』
電話越しに紅蓮が聞いてくる。
「あいつだ……。例のサングラスの男が公園にいる……」
『なんだと?!』
「あの感じは誰かを探しに来たのか、待ち合わせをしているのか、そんな感じですね……」
奏が公園に入ってきた男を見てそう言葉を綴る。
「紅蓮、また後で連絡する。場合によってはその場所で合流できるかもしれない……」
『分かった』
そう言って電話が切れた。
「ちっ……、ここにもいねぇか……」
拓海が小さく舌打ちをしながら呟く。
この公園にもしかしたら翼がいるかもしれないと思いやって来たのだが、翼の姿は公園にはどこにも無かった。諦めて、その公園から出ていく。
その後を、奏と透がそっと尾行していた。
「……死体が上がった?」
冴子が何か情報がないかと詐欺事件を追っている玄からその話を聞いて訝しげな声を出す。
「あぁ、どうやら海を泳いでいたダイバーたちが海に布袋で包まれた死体を見つけて通報があったんだ。どうやら、布袋が何かに引っ掛かって破れたんだろうな。手がその布袋から出ていたらしくて人間だと分かったらしい。身元は調査中だが、殺しだろうな……。その布袋に浮かばないように錘が付けられていたそうだ……」
警察官がそう言って、一枚の写真を見せる。
「これがその仏さんの写真だよ」
その写真には引き上げられた時に撮った写真だった。
「……ちょっと、この写真を借りていいかしら?」
冴子がそうお願いする。
「あぁ。構わんよ。詐欺事件と関係があるかは分からないがな……」
「ありがとう。じゃあ、また何か情報があったら頂戴ね♪」
冴子はそう言うと、その場を後にした。
「紅蓮!槙!」
透が二人を見つけて声を掛ける。
「よっ!やっぱりここに来たな!」
紅蓮が奏と透がこの場所にやってきたので軽快な口調で言う。
「……てことは、紅蓮たちが尾行していたのもやはり詐欺グループの連中だったというわけだな……」
「あぁ、そういう事だな」
透の言葉に紅蓮が相槌を返す。
「じゃあ……ここが……」
透が一つのビルを見上げて声を発する。
「あぁ………。あいつらの根城と言うわけだ……」
槙がそう言葉を綴る。
――――ブー……ブー……ブー……。
そこへ、紅蓮のスマートフォンが振動する。電話の相手は冴子からだった。
『紅蓮、今どこにいるの?』
冴子が電話口で言う。
「今、みんなで合流して赤嶺ビルの前にいますよ。詐欺グループの根城を見つけました」
『そうなの?!分かったわ。とりあえず、一旦捜査室にみんなで戻ってきてくれる?ちょっと確認して欲しいものがあるのよ』
「分かりました」
冴子からの言葉を奏たちに伝えてみんなで捜査室に戻っていった。
「……見つからない……か……」
拓海が宮部の報告を聞いてそう呟く。
「えぇ、くまなく探したんですがどこにもありませんでした……」
宮部が申し訳なさそうに言う。
「てことは、誰かに拾われた可能性が高いというわけか……。まぁ、何重にもロックは掛けてあるから大丈夫だろ。確か、そのやつのコピーはあったよな?」
「はい。こちらにあります」
拓海の言葉に宮部がもう一つのメモリースティックを見せる。
「じゃあ、これを元に続行だ」
「了解です」
そして、今日も拓海が率いる詐欺グループは活動を開始した。
「おかえり♪根城を見つけたのね♪お手柄じゃない♪」
奏たちが捜査室に戻ってくると、冴子が嬉しそうに言葉を綴った。
「えぇ。表向きは『まごころカンパニー』となっていました。調べてみたんですが、名前だけで実在はしません」
槙が赤嶺ビルに入っていた男たちのことをそう説明する。
「そして、俺たちも公園で張り込んでいたら例のサングラスの男がやってきたので尾行しました。そしたら、奴も同じビルに入っていったことが確認できたという事です」
透も先程の経緯を報告する。
「冴子さんの方は何か分かりましたか?」
紅蓮が冴子にそう尋ねる。
「特にないわ。ただ、ちょっと確認して欲しいものがあるのよ」
冴子がそう言って一枚の写真を奏たちに見せた。
「「……こいつは?!」」
その写真を見て紅蓮と槙が声を上げる。
「知っているのね」
冴子が紅蓮と槙が同時に声を上げたので何かを確信する。
「あぁ。この男は俺たちが昨日見た受け子と思われる男だ」
槙が淡々と言葉を綴る。
「恐らくメモリースティックを落として見つからなかったから制裁をうけたんだろうな……」
紅蓮が苦々しく言葉を綴る。
「ついに殺しまでしたってことか……」
透がそう呟く。
「えぇ。どうやら布袋に包まれて錘を付けられた状態で死体を海に遺棄したそうよ。偶然ダイバーたちが発見して、通報があって発覚したわ」
冴子がその時の状況を説明する。
その時だった。
――――コンコンコン……ガチャ……。
特殊捜査室の扉を叩いて、玄が入ってきた。
「おい、例の仏さんの身元が分かったぞ」
「誰だった?!」
玄に冴子が声を上げる。
「仏さんの名前は角田 倫司(かどた りんじ)。アパートに一人暮らしをしていたそうだ。コンビニでたまにアルバイトをしていたそうだが、その割には金回りがそれなりに良かったらしく、大家も不思議がっていたよ」
玄がそう説明をする。
「玄さん。その男なんだけど、私たちが今追っている詐欺グループの受け子みたいよ」
「なんだと?!」
冴子の言葉に玄が声を上げる。そして、玄にもこれまでの詐欺事件に関することで調べたことを説明していった。
「……成程な。確かにへまをしたから殺された可能性はあるな」
玄が神妙な顔でそう言葉を綴る。
「今から、今後の行動をどうしていくか決めるわよ」
冴子がそう言葉を発した。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
ある人物が響くような悲鳴を上げた。
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