2.


 奏が店にやって来た客たちに何かを感じたのか、そう声を漏らす。


「今入ってきたやつらがどうかしたのか?」


「いえ……、何でもないです……」


 透の言葉に奏はそう答える。


(なんか、さっきの会話が引っ掛かったんだよね……)


 心でそう呟きながら奏はあまり気にしないでおこうと思い、歓迎パーティーを楽しんでいった。




「はぁ~……。お家だ~……」


 家に帰りついて、奏がベッドに横になる。


「あっ……、そろそろ時間だ……」


 奏が何かを思い出して、鞄からスマートフォンを取り出し、イヤホンを付けてある人からの電話を待つ。



 ――――プルルルル……プルルルル……。



 しばらく待っていると、電話がかかって来て奏が通話のボタンを押す。


広斗ひろとさん!お疲れ様!」


『お疲れ、奏。元気してる?』


 電話の相手は奏の恋人の大宮おおみや 広斗ひろとからだった。広斗は今、海外に行っているが時間が空いたときは事前に連絡して電話をくれる。それが奏の楽しみの一つでもあった。いつものように広斗が海外であった事をいろいろと話してくれる。広斗は今日、行っている国の教育現場にお邪魔させてもらったということだった。その国の子供とも交流をしてきて勉強になったと嬉しそうに話す。


『……で、そこの子供から木の実を貰ってね、一緒に食べたんだよ。なんだか不思議な味だったけど、割と美味しかったよ』


 広斗が現地で交流した子供との出来事を話す。


『奏は今日も無事に一日が終わった感じ?趣味の物書きは進んでる?』


「えっと……」


 広斗の言葉に奏がどう説明するべきか悩む。


「その……実は……」


 奏はそう言って、例の誘拐事件のことを話す。そして、それがきっかけで警察の特殊捜査員に任命されたことを話した。


『……奏が……特殊捜査員?』


「うん……」


 しばらく沈黙が続く。


『……要は警察官ってことだよね?』


「そうなります……」


 再度、沈黙が流れる。


『す……凄いじゃないか!奏が警察官でしかも特殊捜査員だなんて!事件の事は驚いたけど、それがきっかけだなんてね!』


 広斗が興奮状態でそう言葉を綴る。


『それに、奏が趣味で書いている物語にも役に立つんじゃないかな?奏の作品はミステリー系が多いから』


「あ……そっか……そうだよね……」


 奏が広斗にそう言われてそのことに気付く。


 昔からお話を書くのが好きな奏は趣味として物語を今でも書いている。昔は恋愛系の話やちょっとした童話のようなものを書いていたが、今はミステリー系を書くことが増えてきた。昔から奏の両親がサスペンスやミステリー系のドラマが好きだったので奏も自然に観るようになり、いつ頃からかミステリーを書くようになっていった。自分で伏線を考えたりするのは大変だが、それ以上に物語を書くのが好きな奏にとって、それは全く苦になるどころか楽しささえ感じるほどだった。そして、広斗は奏が物語を書いて完成したときの最初の読者でもある。


 その後も電話で今日の歓迎パーティーの事や透が相棒になったことを話していく。そして、時間はあっという間に過ぎ、広斗は明日も朝早くから仕事だからという事で電話が終わった。




「おはようございます!」


 奏が特殊捜査室の扉を開けて元気よく挨拶をする。奏の今日の格好はロングワンピースに薄いニットを着ており、警察官としては程遠い格好のようにも思えるが、格好に関しては門野からスーツだと相手が上手く話せなくなるかもしれないので奏らしい服装で仕事をするようにと言われたのがきっかけで、そういった格好で出勤することになった。勿論、その事は他の捜査員も知っており、誰もその恰好を咎めるものはいない。


「おはよう♪奏ちゃん♪今日の格好も可愛いわね♪」


 冴子が真っ先に挨拶をする。


「おはようございます」


 そこへ、透が特殊捜査室にやってきた。


「おはようございます。透さん」


 奏が笑顔で透に挨拶をする。


「おはよう。あれ?紅蓮は遅刻か?」


「どうせ、昨日飲み過ぎて唸ってるんだろ」


 透の言葉に槙がいつもの口調で淡々と言葉を綴る。


「……はよーございます……」


 紅蓮が特殊捜査室に二日酔いなのか少し青ざめた顔でやってくる。


「あ~……頭イテェ……」


 紅蓮が頭を押さえながら苦々しく言葉を吐く。


「飲み過ぎだ。アホンダラ」


 槙が淡々と毒を盛ったような言葉を吐く。


「う……うるせぇ……青二才が……」


 紅蓮が二日酔いの状態でも負けじと言葉を吐く。


「奏ちゃんは大丈夫かしら?」


 冴子が奏を気遣って声を掛ける。


「あっ!はい!私は大丈夫です!」


 奏が慌てた様子で言葉を綴る。


「そう♪良かったわ♪じゃあ、早速だけど、捜査会議に入るわよ。昨日の今日でちょっと収穫があったの♪」


 冴子がそう言って一つのメモリースティックを見せた。



 メモリースティックに入っている画像を槙がパソコンで操作して壁に備え付けられている大きなスクリーンに映し出す。


「……これは、受け子と思われる犯人がお金を受け取る場面よ」


 映像にはスーツを着た一人の男が年配の老人から茶封筒を受け取るシーンが映っていた。場所はどこかの広場のような場所だ。男は茶封筒を受け取ると、その場を去っていく。


「そして……」


 冴子がそう言うと、槙が別の映像を出した。


 その映像にはスーツの男が黒服にサングラスをかけた男と合流している。


「……この黒服の男もグループの一人だと思われるわ。これは、近くの防犯カメラがとらえた映像よ」


 冴子が説明していく。


「……あれ?」


 奏が何かを感じたのか声を上げる。


「どうしたの?奏ちゃん」


 冴子が不意に声を出した奏に尋ねる。


「いえ……、その黒服の男の雰囲気……どっかで見たような気がするのですが……」


「「「えっ?!」」」


 奏の言葉にみんなが一斉に驚きの声を上げる。


「何処で見たの?!」


 紅蓮が堰を切った感じで奏に問いただすように言葉を発する。


「いえ……、どこかで見たようなというだけで、何処かは分からないのですけど……」


「なんだ……、気がするって言うだけか……」


 奏での言葉に槙が呆れたように淡々と言葉を綴る。


「すみません……」


 槙の言葉に奏が申し訳ない顔で謝る。


「いいのよ、奏ちゃん♪気にしないで♪」


 落ち込んでいる奏にすかさず冴子がフォローを入れる。


「……で、この黒服の男だけど……。槙、よろしくね♪」


 冴子がそう言って槙に微笑みかける。


「……分かりました。やってみます」


 槙はそう言うと、パソコンにサングラスをかけた男の解析を始めた。


 ――――カタカタカタカタ!!


 凄い速さでパソコンのキーボードを打っていく。槙が解析しているのはその男のサングラスを取った素の顔を暴くことだ。


 ――――カタカタカタカタ……カタカタカタカタ……。


 キーボードを打ちながら男の顔を徐々に鮮明にしていく。


 そして、二十分ほど経過した時だった。


「解析完了です」


 槙がそう言って男の素の顔写真をスクリーンに映し出した。


「お見事♪」


 冴子が満面の笑みで言う。


(あれ?やっぱりどこかで……)


 奏がそう心で呟き、何処で見たのかを必死に思い出そうとする。


「流石俺の相棒だな!!」

「お前に相棒呼ばわりされたくない。この酔っ払い」

「ちょっと飲み過ぎただけだよ!」

「じゃあ今度酔っぱらったらどっかの海に沈めてやるよ」

「ひっでー!!」


 紅蓮と槙がそんなことを言い争っている。


(酔っ払い……あっ!!)


 奏が心で何かを思い出す。


「そうだ!あの時の……!!」


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