ファクト ~真実~
華ノ月
序章
プロローグ&1.
~プロローグ~
「……終わりだ……もう俺は終わりだ……」
一人の男が蹲りながら頭を抱えてそう言葉を呟き続ける。
「……なんで……なんでこんな目に遭うんだよ……」
物が散乱した部屋で憎しみを孕んだ声で小さく呟く。
「……どうせなら……」
男がそう言って、ふらついた足で立ち上がると、そっと家を出た。
1.
「じゃあ、お母さん!出掛けてくるね!!」
空が晴れ渡り、秋が近づいてきたのもあってとても心地よい風が吹いている。奏はお出かけの日の格好として、小さな花柄が散りばめられている白のワンピースに身を包み、小ぶりの薄いピンクのハンドバッグを持って、駅までの道を歩いていた。
「ん~……。気持ちイイ~♪」
テコテコと駅までの道を歩く。
今日はバイトが休みという事があり、休日を満喫するために街の方まで出てショッピングやカフェでのお茶を予定していた。
電車を待つ間、スマートフォンで今日行くカフェの場所を確認する。
(このケーキ、食べてみたかったんだよね♪)
今日のお出かけの予定の一つであるカフェで頂くデザートを楽しみにしながらウキウキ気分で電車に乗り込んだ。
――――ガタンゴトン……ガタンゴトン……。
電車に揺られながら、電車の中から見える景色を眺めて街に向かう。今日は平日という事もあり、電車の中は人がまばらだった。
やがて、電車が街の中心部の駅に止まり、奏は電車を降りた。
「さて、まずはいつもの店にこの前出たと言っていた新作のアクセサリーを見に行きますか♪」
奏がそう言って、お気に入りの店に向かう。
アクセサリーと言ってもジュエリーショップではなく、生活小物と一緒に売られているだけの雑貨屋になるのだが、奏はその店が焚いているアロマの香りを楽しみながらそこのアクセサリーを見るのが好きだった。他にもハンドクリームやちょっとした可愛らしい食器も扱っているので気に入ると購入する。しかし、そう言った可愛いものや綺麗なものが見るのが好きな奏はその店に癒しを求めてやってくると言った形だった。ただ、友だちのプレゼントとかを買う時は、必ずこの店で購入していたのである。
(もうすぐゆっちゃんの誕生日だからハンドクリームをプレゼントしようかな?)
――――チリーン。
店の扉を開いて奏が店に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ~。あらっ!奏ちゃん!」
「こんにちは!」
奏が店に入ると、店主である女性が声を掛ける。
「そうそう、奏ちゃん。この前、友だちにプレゼントするのにアロマの香りがしたネイルケアオイル買ってくれたじゃない?その友達がそのオイルがすごく良かったからって他のお友達に教えたらしくてね。この前、教えてもらったって言う友達が買いに来てくれたのよ。ホント、奏ちゃんには感謝ね。口コミでこの店が広がっているんだもの」
「良かったです!あのオイルは私も愛用品ですからね。とってもいいので友達にも知ってもらいたいと思ってプレゼントしたんですよ♪」
「そうなのね。ところで今日は買い物?それとも新作を見に来たの?」
店主の言葉に奏が両方を見に来たことを伝える。「ゆっくり見ていって」と店主は言うと、その場を離れていった。
(店主さん、押し売りとかしないから気軽に見れるな~♪)
奏がそう思いながら、誕生日が近い友達のプレゼントを何にするか選んでいた。
「……どうせなら誰かを道連れにしてやる……」
男がブツブツと呟きながら人通りが多い道を歩く。薄手のコートの内ポケットにナイフを忍ばせて、道を歩きながら目を鈍く光らせ、誰をターゲットにするかを物色していく。
「……女か……子供か……」
そう呟きながら街を練り歩いていった。
「わぁ~……。美味しそう~♪」
運ばれてきたケーキを見て奏が感嘆の声を上げる。
あの店でプレゼント用のハンドクリームを買い、その後はウインドウショッピングを楽しんだ後、行きたかったカフェに足を運んだ。そこで、食べてみたかったケーキと紅茶を注文し、しばらく待って運ばれてきたケーキを見て、あまりの美味しそうな見た目に声が出てしまったのだった。
「……ん~♪スポンジフワフワ~♪チョコクリームもサイコー♪」
そう言いながら美味しそうにケーキを頬張っていく。
「……はぁ~、美味しかったです♪」
紅茶を啜りながら満面の顔でケーキを食べ終えると、一息吐いた。ケーキの味を噛み締めながら、ゆったりとしたひと時を過ごす。
その時だった。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
店の外から女性の叫び声が聞こえた。
「すみません!会計をお願いします!!」
奏が叫び声を聞いて、ただ事じゃないと思い、急いで会計を済ませると店を飛び出した。
「
一人の女性が名前を叫びながら傍にいる警備員に押さえ付けられている。
女性が名前を呼びながら叫ぶ方向に奏が目を向けると、そこにはとんでもない光景があった。
「静かにしろ!このガキを殺すぞ!!」
一人のナイフを持った男が小さな女の子を担いだ状態で叫び声をあげている。女の子はあまりの怖さに泣き叫んでいた。
奏が野次馬を押しのけて、その光景を目にすると、大きく深呼吸する。
「待ってください!!」
奏は大きな声でそう叫んだ。
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