噂話 3
こやつ、我の醜態を知っておるから始末が悪い……!
「た、確かに毎朝ママに起こされてはいるが、二度寝はしとらんし……玉ねぎは食べられるようになったし。それにおぬしだって玉ねぎ食べられないじゃろがい!」
「わぉん!(犬だから当たり前だ!) 犬を飼うならもっと勉強しろ!)」
「ぐぬぬぅ……そ、それはそうじゃが……」
「わぉん(教えてくれる人はいねえのか?)」
「だって気付いたらパパがやっちゃうのじゃ。ママから『パパはやり方を教えてソルちゃんにやらせなきゃダメでしょ』とよく言うのじゃが……パパはなんか、こう……教えるタイミングが行き当たりばったりで、よくわからぬ」
ミカヅキも、「それはわかる」と頷いた。
「わふぅ……(それは確かにそうなんだよな……。お前の親父さん、擬音語が多いし。グッとやるとか、ちょろっとやるとか)」
「うむ。パパはパパとして立派な男子であるが、そこが玉に瑕じゃ」
我はミカヅキと共に、しみじみと頷いた。
「しかし、ちょっと停滞してる感があるのじゃ……。あの人間たちのような、熱き魂を持った戦士がゴロゴロいれば楽しいのじゃが」
「わんわん(ゴロゴロはいねえだろ。つーか、ゴブリンどもをもっと強くさせてやれねえのか?)」
「おぬしもわかっておろう。前世ほど強く【覚醒】させることができぬ。弱体化しておるようじゃ」
「くぅん……(やっぱりな……。恐らく俺もそうだ)」
「む、おぬしもか?」
大自然の化身は皆、【覚醒】を使うことができる。
だが今の我はジェイクたちに加護を与えようとしても思うようにいかぬ。
完全に不可能……というわけでもないのだが、本人の潜在能力の開花を促し、成長速度を少しばかり速める程度のことしかできぬ。地道な鍛錬が伴わなければ加護が花開くことはない。
「(ああ。俺の方が弱体化の度合いは強いだろう。狩人の神として俺を信奉するやつにしか加護は与えられん。ラズリーを倒しに来た狩人の人間は、三日月になる度に月に祈りをささげていたから遠くからでも【覚醒】を与えられたが、それでもまだ不完全だ。まだまだ伸びしろがあるのに、惜しいぜ)」
「転生したばかりであるからじゃろうか……? 我らはまだ今の肉体に不慣れて未熟であるし」
「(いや……そこは関係ないんじゃねえか? 俺は眠っている状態でも【覚醒】させることができた。何か別の要因があるのかもしれねえ)」
「うーむ………………ま、よいか」
「わぉん!(よくねぇよ!)」
ミカヅキがツッコミを入れてきた。
「だって、我が眷属をすぐに作れたらヌルゲーではないか。それに、目下の者を一から鍛えるのも悪くはない。いや、それがまっとうと思うのじゃ。我も赤子から時間を掛けて成長しておる。定命の者は、そうして一歩ずつ強くなる方がよいのではなかろうか」
「くぅーん……(そりゃそうだが……原因がわからねえのが不気味だ)」
「それもそうじゃのう……」
そう言いながら、原っぱにごろんと転がる。
すると、聞き覚えのある声が響いてきた。
「あ、ソルちゃんとミカヅキちゃんだ。おーいおーい」
「エイミーお姉ちゃんとその弟たちではないか。どうしたのじゃ」
「おやぶん!」「ソルねえちゃん!」「ソールー!」
「ブラザーズは相変わらず見分けがつかぬのう。鬼ごっこでもするか?」
我の言葉に、4人がぶーぶーと不満をぬかした。
「おやぶんに勝てるわけないだろ!」
「そーだそーだ! 空飛べるのずるい!」
「翼生やすのおしえてよー」
「てゆーか空飛んだら駄目だよ。あたし、おふくろにゲロはきそうなくらい怒られたんだから」
男児三人の文句はともかく、最後のエイミーお姉ちゃんの言葉はけっこう重い。
我がうっかり門限を忘れて、行方不明になったと思い込んで村を挙げての大捜索となってしまったわけであるし。
「そ、それは誠に申し訳ないのじゃ」
「まーいいんだけどね。あたしも家出したことあったし。無事に帰ってきたなら全然OK!」
「む? エイミーお姉ちゃん、家出したことがあるのじゃ?」
「たははー、若気の至りってやつ?」
エイミーお姉ちゃんが、照れくさそうに頷いた。
「あたし、都会に憧れててさぁ。いや今も憧れてはいるんだけどね。隣町はカフェもあるし、ウチみたいな集会場でお勉強とかじゃなくて、みんな綺麗な制服を着て学校行ったり」
「かふぇ……がっこう……きれいなふく……」
うーむ、ちょっと想像つかぬのう……。かふぇはちょっと興味あるが。
でもその他はピンと来ぬ。我はもうすでにママが縫ってくれた素敵なお洋服を着ておるし。
「面倒くさそうなのじゃが」
「そんなことないよー! 憧れのキャンパスライフ送ろうよぉ!」
「でも隣町まで徒歩で半日かかるし、一番栄えてる州都など3日はかかるから難しかろう。我も飛行禁止令が出ておるし」
「そーなんだよー! 子供の頃は頑張って走ればなんとかなると思ったんだよぉ!」
「ふふーん、エイミーお姉ちゃんも案外おこちゃまなところあるのじゃ」
「あ、そーゆーこと言うんだ。あたし知ってるからね? 日食のときにガタガタブルブル震えておねしょしたこととか?」
「なっ、なぜそのことを……! 忘れるのじゃ!」
「忘れませーん!」
エイミーお姉ちゃんを追いかける。
意外にエイミーお姉ちゃんは足が速い。というかこの村人たちは妙にフィジカルが強い。
パパもママも昔は冒険者だったらしく、ゴブリンたちよりも強さを感じる。
エイミーお姉ちゃんも鍛えればよい戦士になるであろう。
とはいえ我ほどではないのだが。
「きゃー捕まっちゃったー! じゃーあたしが鬼ね」
「別に鬼ごっこではないのじゃ!」
「あっ、だから飛ぶのはナシだって!」
「おっと、そうじゃったそうじゃった」
飛行禁止令を思い出してすぐに翼を引っ込めて地面を走る。
「速い速い速い……って、危ないよソルちゃん!」
そのとき目の前に、誰かがいた。
エイミーお姉ちゃんと同じくらいの少女だ。
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