噂話 1



 我が大いなる太陽の化身、邪竜ソルフレアだという記憶を取り戻し、そして相棒たるミカヅキを得て三カ月が経った。


「今日はジャンジャンバリバリ音と光を出して格好良く敵を殺す七つの方法を教える」

「普通の戦い方を教えてくれ」


 我は今、死体啜りの森のラズリーが生えていた跡地にゴブリンどもを集めて訓練をしていた。


 ちなみに我はラズリーを倒した後、再びここに来てリーダーのジェイクをタイマンで倒し、正式に死体啜りの森の主となった。絶対に負けるとわかっていても戦うと決意した勇気を讃え、我はこやつを鍛えてみることにした。


 いや、実際鍛えなければならぬ。我にはどうしても抗えぬ門限があるのだから、不在中はゴブリンたちや、その他、死体啜りの森に住む者同士で頑張ってもらわねばならぬ。


「魔物の形はまちまちじゃ。己にとってあるべき戦いの形は己で模索せねばならぬ。じゃが魔力の練り方は別じゃ。瞑想、始めぃ!」

「応!」

「深く深呼吸して、天と地を意識し、その中心におぬしらの丹田があると思え。特に天を意識せよ。太陽がそなたらに加護をもたらすであろう」

「応!」

「瞑想中は叫ぶでないわ!」


 ジェイクたちは我の言葉に従い、黙々と魔力を高めている。


 こやつらに【覚醒】を施して頑強さや魔力は上がったのだが、前世のときほどの強化量ではない。このままでは心もとないので、地道に訓練を重ねるしかない。そしてゴブリンたちも「与えられた力に満足してはいけない」という危機感があるのか、自分から特訓をするようになった。うむ、よい心がけである。


 しかし、魔物は大きく弱体化している。


 過去は誰もが知っていたであろう、己を鍛えるための知恵というものが失われている。ラズリーのように千年前から生きて今も権勢を誇っている魔物はいるはずだが、彼らが魔物を鍛えていないのは少々不可思議である。……あるいは、強さを独占しているのだろうか。


 長命な魔物が己の魔力を高めることに邁進し、むしろ弱い魔物からは強さや魔力を奪い、より弱くしているということもありうる。よくないのう。


「わん!(ま、考えたって結論は出ねえさ)」

「まーそれはそうじゃが」

「わんわん(焦るこたぁない。のんびりいこうぜ)」

「うむ。ここの主となったからには、まず今日と明日を生きねばの。こないだのように人間の冒険者が来るやもしれぬし」

「わんわん(にして嬉しそうな顔してるじゃねえか)」

「まあまあ、それは許せ。強き者と戦うのは竜の務めじゃ」


 こないだ訪れた弓手と聖騎士のパーティーは実に良かった。

 技も魔力もよく練っており、互いをよく補い、実戦経験が豊富で、戦うべき覚悟を持っていた。

 古の魔物たちもああいう気風を尊んでいたものだ。

 あのときは門限が迫っていたから土産だけ渡しておいたが、またここに来てくれぬであろうか。ゴブリンたちの技量を高める上でのコーチングをお願いしたい。


 だがいない者を当てにしても仕方がない。


「よし、軽く手合わせしてやろうかの」

「またかよ! クソッ、しょうがねえな!」


 ジェイクが槍を持ち、他のゴブリンたちも短剣や斧を手に取った。

 手合わせのときは我が一度に全員を相手にするルールである。

 ゴブリンどもは連携して強い敵を狩る経験を積み、我は我で戦いの勘所を思い出さねばならぬ。


「わん(待て待て。もう少しで夕暮れになるぞ。門限だ)」

「ぐぬぬ……手合わせは1回にしておくかの……」


 ゴブリンたちに少しばかりホッとした空気が伝わる。

 そのヌルさはいかんな。


 全力で叩きのめしてやろうぞ。


「わん!(加減しろバカ!)」







 今日もよい運動をした。

 死体啜りの森も心なしか明るくなったように思う。

 いや、実際ちょっと明るい。

 恐らくラズリー本体から分離した樹木が枯れて、本来ここにあるべき樹木の方が育っている。

 あやつの淫猥な果実が実ることはあるまい。


「あやつはどうしておるかのう」

「傷を癒したら復讐しに来るかもしれねえ……いてて」


 ジェイクが、蹴られた腹をさすりながらやってきた。


「そうかもしれぬのう」

「楽しそうに言うじゃねえか」

「おぬしも、期待しておるのではないか?」

「そうかもしれねえ。本来だったら俺たちが倒さなきゃいけねえからな」


 ゴブリン族は長らくラズリーに支配されていた。

 いきなり森の主から除かれたとしても、思うところはあるのだろう。

 だが、初めて出会ったときの意気消沈した様子は消えている。


「その意気じゃ。精進するのじゃぞ」



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