冒険の終わり 3
ディルックの言葉に、シャーロットが驚きを露わにした。
「なんと……そんなことが。では一体、誰が死体啜りの森を治めているのでしょう……?」
「それは……恐らく竜人の……」
ディルックが言いかけた瞬間、足に痛みが走る。
ユフィ―の靴が思い切りディルックの爪先を踏んでいた。
(何するんだよユフィ―!)
(あんたねぇ! ちっちゃい女の子にボコボコにされたなんて言っちゃうつもり!? これからの仕事に響くかもしれないんだから、迂闊なこと言わないの!)
(い、いや……だが嘘を吐くわけにも……)
(あのとき気を失って、意識を取り戻したらラズリーの根と葉があったのよ。女の子の幻覚を見てただけかもしれないじゃない)
(おいおい、それは流石に……)
(他人が聞いたら信憑性はどっちも同じよ。女の子にボコボコにされたって話も幻覚って話も、うさんくさいじゃないの。嘘を吐けって言うんじゃなくて迂闊な話はするなって言ってんの)
ユフィーの鋭い目と言葉に、ディルックも思わず納得して黙った。
「あの、ディルック様?」
シャーロットが不思議そうに聞かれて、ディルックは迷った末に少々の方便を使った。
「あ、ああ。新たな死体啜りの森の主は、凄まじく強い竜人だ。顔や性別はよくわからなかったが……とにかく只者じゃなかったな」
「竜人、ですか……。人里にいる竜人族以外にも、暗黒領域には魔物と交わってくらす部族がいるとは聞いたことがありますが……」
「多分そうだろう。しばらく戦った後、満足して立ち去っていったよ。獣の時代の伝説のように、戦うことを誉れとする古風な相手だった」
「それは……とても興味深いですね」
シャーロットがどこか興奮した様子で呟く。
「物騒な話だが、面白いかい?」
「冒険者様のお話や英雄譚が昔から好きで……子供っぽくてお恥ずかしいのですが」
「そんなことないよ。まあ、勇ましく勝ってきたって土産話ができればよかったんだけどね」
「いいえ、こうして薬を届けてくださったことが何よりの英雄譚です。『ユールの絆』は子供ばかりですので、聞かせてあげるとみんなが喜びます」
「そういえば……確かに、若い連中ばかりだな」
「もちろん大人もいるのですが、私たちは教会であり学校なのです。『ユールの絆学園』という学校を運営しています。この服も実は制服でして」
「えー、いいなー! 可愛いじゃんそれ!」
ユフィ―が目を輝かせてシャーロットの服を見る。
「ありがとうございます。ここの復興が落ち着いたら、学校に通いたい子を募集したり……特待生になれるような子を探す予定です」
「特待生か。まあ、優秀な子はどこも欲しがるよな」
「あまり才能で区別をつけるのもよくないとは思うのですが……どうしてもこのところ、世情が不安定でしょう? 怪しいギルドや犯罪組織に才能ある子が取り込まれる前に、学校の名の下で庇護できる環境を作りたいと校長先生が仰せになりまして」
「そうだね。いいことだと思う」
「ディルック様とユフィー様は、旅先でそういうお話は聞きませんでしたか? 才能ある子がいるとか」
ディルックは特に心当たりはなく、首を横に振った。
だがユフィ―は何かに思い当たった様子だった。
「そういえばあたし聞いたことあるよ。暗黒領域の近くに凄い才能を持った子がいるとか」
「そんな子がいるのか。おいおい、もしかして……」
ディルックがその言葉でイメージしたのは当然、暗黒領域で戦った童女だ。
あんなのがそこらの村にいてたまるかと、苛立ちを覚える。
「暗黒領域に行ってるんじゃないかって? あるわけないでしょ。平和な村だよ。名産のりんごも羊も美味しいって評判だし」
「アップルファーム開拓村のことですか?」
「そうそう。って、その口ぶりだともう知ってるのかな」
「ええ。シャイニングルビーを作ったのも小さな子供という噂もありますし、いずれ足を運ぼうと思っていました。ありがとうございます」
「確か、村長の娘さんだそうだよ。でもヤンチャだって噂もあるね」
「子供なんてそんなもんさ。のびのびしてる方がいい」
「ディルックこそ本当にヤンチャだったからね。今じゃ落ち着いてるフリしてるけど」
ユフィ―の茶々に、ディルックは苦笑を浮かべた。
そんな二人の様子に、シャーロットが花のように微笑んだ。
「元気な子も大歓迎です。……悪を戒め、魔物たちを倒し、人間に平和を与える太陽の愛し子。私たちは『ユールの絆』はそのような子らを育むための活動をしているのですから」
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