冒険の終わり 2
「シャーロットちゃん! この街の英雄たちが帰ってきたのさ!」
「ということは……あなた方が、かの有名な義人、ディルック様とユフィ―様ですか……!」
ディルックが見たところ、ずいぶんと若い少女であった。金色の髪をおさげにした柔らかな雰囲気の子で、良家の子女のような印象もあり、神殿に仕える敬虔な巫女のようでもある。
「初めまして。『ユールの絆』教会のシャーロットと申します」
シャーロットと名乗った少女が、二人に丁寧な挨拶をした。
聞き慣れない名前に、ディルックがぽかんとした顔を浮かべる。
「ユールの絆っていうと、確か……太陽神教の一派だったかしら……?」
「へぇ……。太陽神の使徒は、もっとなんか……ツッパってるイメージだったんだが」
ユフィーが自信なさげに答え、ディルックが不思議そうにしていた。
「おいおい、英雄様にしちゃ物知らずだな」
「うるせえ」
ちっちっとアルダンが指を振って、自慢げに話し始めた。
「太陽神の信徒が中二病とか不良ってのは昔のイメージだぜ。『ユールの絆』は、その創始者が廃屋とか村はずれに集まってる不良や身寄りのない子を集めて、神殿や学校を建てて始まったのさ。今じゃみんな更生して、毎日真面目に礼拝をしてる」
「へぇ……昔とイメージが違うんだな」
「で、この子らはペアフィールドの街の神殿から来てて、復興を手伝ってくれたんだよ」
その称賛に満ちた紹介に、シャーロットは照れながら微笑む。
「そんな大したことはできていません」
「そんなことないさ! シャーロットちゃんも他の子たちも真面目で、熱心でさ……。俺たちもくさくさしてられないって思って、街を立て直そうって思ったんだ」
そう語るアルダンの顔には、希望が浮かんでいた。
◆
ディルックたちは教会の中に招かれ、シャーロットから詳しい話を聞くことになった。
聞くところによると、ディルックたちが旅立った後に『ユールの絆』という太陽神教の一派が街にやってきて、怪我人の治療やガレキの撤去作業などの慈善活動を始めたらしい。
街の人間も最初は胡散臭い目で見ていたが、献身的な働きに少しずつ感化されていった。ディルックたちによって闇商人が倒され危機が去ったことも大きな理由の一つではあったが、それでも彼女たちの尽力に救われた者も多く、今では太陽神教に帰依した街の人も多い……と、アルダンが語った。
街の雰囲気が大きく変わった理由を知り、ディルックは安堵していた。
「そういうことなら、これを預けてもよいのかもしれないな」
「ちょっとディルック、いいの?」
「信頼できるかどうかなんて、わかることさ」
ディルックは、シャーロットの手をちらりと見た。
あかぎれや火傷の後が見える。怪我人や病人を熱心に看病していなければ、こうはならない。楚々とした可憐な佇まいをしていても、復興に尽力したという言葉が嘘ではないと示している。
だが、よく見ればそれ以外の傷もある。
武闘家の拳ダコに近い。それも始めたての素人特有のわかりやすい跡ではなく、修練に習練を重ねた末にできる、磨き抜いた珠のごとき美しさを伴った跡が。
「あ、あの……お恥ずかしいもので、失礼します」
シャーロットが視線に気付いたのか、手をさっと隠した。
「デリカシーないわね、あんたは!」
「す、すまん。ただアレを任せるにはいいと思って……」
「それは……あの荷物のことですか?」
シャーロットがディルックたちがやってきた荷馬車の方を見る。
「ラズリーの根と葉から作った解毒薬だ。樽一杯分はあるから足りるとは思う」
「なんですって!? ああ、それはなんと素晴らしいことでしょう……!」
シャーロットが驚きの声を上げた。
「毒酒は出回らなくなったにしても、後遺症に苦しんでいる人も多いだろう。預けてもいいか?」
「もちろんです! ですが、ということはあなた方がかの恐ろしい妖樹ラズリーを……」
シャーロットが畏敬の目でディルックたちを見つめる。
だがその言葉に、ディルックは気まずさを覚えながら答えた。
「……いや、俺たちが倒したわけじゃない。すでにラズリーは死体啜りの森の主人ではなくなってたんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます