覚醒の儀式 4



 こんな感じで呪文を唱え、太陽の力を借りれば、りんごの力を引き出せば神酒の原料となるはずだ。

 これで呪文はあってるはずじゃが……うーむ、人間になったせいか、今ひとつピシャっとせぬのう。

 ていうかブラザーズども、なんで我の後に唱えておるのじゃ。


「なんかりんごが光ってるよ」


 エイミーお姉ちゃんの言葉通り、りんごがルビー色の輝きを放ち始めた。

 おっ、一応成功したかの。

 でも前世のときに比べるとだいぶ弱い。

 一万分の一くらいにしか強化できておらんのう。


「「「わー! ソル姉ちゃんすげえ!」」」


「宝石みたい!」


 エイミーお姉ちゃんがりんごを持ってきゃっきゃと騒ぎ出した。

 ふふん、もっと褒めるがよい。


「……けど、なんか食べ物っぽくないテカりかたでちょっと怖い」

「美味しくなさそう」

「ケミカルな感じ」

「ていうか食べていいのこれ」


 エイミーお姉ちゃんとブラザーズがなんか真顔になった。


「あっ、安全じゃし! セーフティ&ヘルシーな食べ物じゃし!」

「でも、光ったからどうなるわけ?」

「りんご本来のパワーが高まったわけである。ゆえに……」

「ゆえに?」

「長老に食べさせれば酔い覚ましになろう」

「あ、健康食みたいな扱いなんだ」


 ふふふ……。これで我の叡智を示せば、パパもママも我がソルフレアであることに気付いて感銘を受けることであろう。誕生日も今まで以上に盛大に祝ってもらえる。パーフェクトなプランである。


「長老ー。酔い覚ましになるよー。食べなー」


 他の子供らが、椅子に座っている長老を椅子ごと担いで持ってきた。

 いや、りんご持ってく方が楽だと思うのだが。


「ううむ……婆さん、飯かのう」

「婆さんじゃないよ。ほらどーぞ」


 エイミーお姉ちゃんが持っていたナイフで器用に皮を剥く。

 ちなみにエイミーお姉ちゃんは体力もあり手先も器用だ。大人になったら都会に行って冒険者になりたいと言っておったこともある。


「古いりんごは儂はあんまり……うむ? なんだこれは……甘いし……頭がすっきりするぞ……?」

「あ、ようやくちゃんと起きた」


 長老が切り分けられたりんごを食べているうちに、目に正気が宿った。


「美味い。このりんご、美味いぞ」


 悪酔いはいかんのう、まったく。


 あ、そういえば悪酔いで思い出したが、ラズリーの果実を食べて悪酔いした者がいるかもしれんな。このりんごでも解毒はできるかもしれんが、あやつの根っこや葉っぱで毒抜きする方が確実じゃろう。万が一に備えて解毒剤の材料を用意しておくか。


「そんなに美味しいんだ。んじゃあたしも食べようか……うわ本当だ。めっちゃ美味い」

「エイミー! このりんごはなんだ!?」


 長老がエイミーお姉ちゃんの肩を掴んでガクガク揺さぶるが、驚いたエイミーお姉ちゃんが反射的に長老の脳天にチョップをかました。


「いたっ! 遠慮のない娘だのう……いや悪いのは儂にしても」

「それはソルちゃんがなんか謎の儀式でりんごをパワーアップさせたやつ。太陽魔法とか言ってたっけ?」

「太陽魔法……だと……?」


 おっ、これはフラグというやつじゃな。

 いやー、流石にこれは我の正体がバレてしまうのう。仕方がないのう。


「お前、あの古文書を読み解いたのか!?」


 古文書? なにそれ?







 なんかえらいことになってしまった。


「これは美味いぞ……品評会に出したら優勝狙えるんじゃないか」

「厳密には加工したりんご扱いだから、普通の品評会には出せねえよ。ジャムとかお菓子と扱いと同じだし」

「だとしても売れるぞこれは。糖度が増してるだけじゃない。ずっと保管庫においてあったりんごやクズりんごなのに触感がパリっとして歯ごたえがある。一番美味い時期に食べるりんごと遜色がない」

「毒消しや滋養強壮の効果もあるようだな。長老の二日酔いが一瞬で治った」


 我のりんごを食べた長老が驚いて我にあれこれと質問した後、長老は外で働いている大人たちを緊急招集した。パパもママも集会所に来ておる。


 大人たちが集まったところで、長老は我に「もう一度、りんごに【覚醒アウェイクニング】してみてくれ」と頼んできた。


 そして我は皆の前で木箱一箱分のりんごをシャイニングルビーりんご(エイミーお姉ちゃん命名)にしてみたのであった。


 しかも我の唱えた呪文を見て、長老も同じことをした。シャイニングルビーりんごが二箱分もできあがってしまった。二箱分も作ってどうするんじゃと思ったが、皆、このりんごの美味しさに驚き、舌鼓を打っている。


「でも本当に美味いわ。この魔法、肉とか野菜にも使えないかしら?」


 ママがそんなことを言った。

 皆、その成果を想像して色めき立つ……が、ちょっと難しいのう。

 なんか知らんがあんまり成功せぬと思う。

 どう答えればよいか迷っていると、長老が口を開いた。


「難しいだろう。りんごのような果実には種があり可能性が内包されているから上手く行ったが、すでに部位ごとに解体された後の肉に発展や進化の可能性はあるまい。野菜も種類によると思う。覚醒とはあくまで可能性を広げるものだからな」


 ……ほえー、そうなんじゃ。


 言われてみればその通りとは思うが、自分自身なんでなのかふわっとしか理解しておらんかった。


「あら、残念。でも他の果物に使えるなら夢が広がるわね」


 ママの言葉に、大人たちが喜びの声を上げた。



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