暗黒領域 11
ラズリー戦のあとのミカヅキとのケンカはドローであった。
我もミカヅキも全盛期の力には程遠く、三日三晩殴り合えるほどの元気はまだない。腹も減ったところでおやつのりんごを食べていたら満足してしまっていた。
残る問題は、帰ってこない我を心配して大捜索してる村人に何と言えばよいかである。
(わん?)
(どうするか、じゃと? ううむ……正直にラズリーを倒したと話しても信じはせぬし、仮に信じられたとしても怒られることには変わらぬし……。そ、そうじゃおぬしが我を拉致ったということにするとか……)
(がるっ!)
(う、ウソじゃよ! そう騒ぐ出ない、バレるであろう……!)」
(わんわん!)
慌ててミカヅキの口を抑える……が、少し遅かった。
「ん? なんかそっちの茂み、音がしなかったか?」
「そうか?」
まずい、村人たちが気付きおった。
どうする……どうする、我……?
(って、我の襟を咥えてどうするつもりじゃミカヅキ!? 逃げるならそっちではないぞ!?)
「あっ、ソルちゃんだ!」
「いたぞー! ソルちゃんが見つかったー!」
「なんか狼がいる……いや、犬か?」
ミカヅキが我の首根っこを咥えておもむろに村人たちの前に姿をさらした。
まずい。
これは、まずい。
「うちの娘を離しなさい! 竜夏槍術義ぃ! 灼光!」
我が魔物に囚われてると即座に判断したママが奥義を放ってきた。
雷のごとき光の速さで狙った相手だけを殺す一撃で、人質を取られているときや、獣に最小限のダメージだけを与えて殺したいときに使うカタナの奥義である。
我が生まれ変わる前もちょっとだけ見た。我がうっかり農園に忍び込んできた狼にさらわれそうになったときに放って、無事に救い出したこともあった。
腰だめに構えて真っ直ぐに突きを放つのはなんか格好良いので、先程もつい真似してしまった。ていうかママはブチ切れるとパパよりも怖い。なんか若い頃は槍の武者修行をして道場破りとか賞金首の付いた魔物ハンターとかしてたらしい。
「わぉん!?」
「待った待ったママ! 違うのじゃ! こやつに助けられたのじゃ!」
ミカヅキに剣が届く1ミリ手前で、ギリギリ間に合った。
「ソルちゃん、無事なのね……?」
「うん」
「ばかっ!」
「馬鹿野郎!」
ママが叫び、そしてパパもすごい形相で我のところに走ってきた。
びくりと体が固まる。
叱られる。
「心配したんだぞ……黙ってどこにもいくな……!」
「そうよ! 消えちゃったかと思って……うぇええん……本当に心配したんだからあああぁぁぁ……」
覚悟したそのとき、二人から痛いくらいに抱きしめられた。
「パパ……ママ……」
「怪我してないか? 無事か?」
「お腹減ってない?」
声がひたすらに心地よい。
触れられているところが温かい。
幸福感に満ちているはずなのに、胸の奥が針で刺されるように痛い。
「パパ……ママ……。ごめんなさい……」
じわりじわりと涙が溜まっていき、決壊しそうになるのを感じた。
そうなってしまうのが恐ろしく、パパとママをぎゅっと抱き返した。
「……ソルちゃん。今日は帰ってゆっくり休みましょうね」
「うん」
「みんなにお礼を言って、ご飯を食べて、寝るとしようじゃないか。……ところで、この白い犬……どうしたんだ? お前を連れてきてくれたようだが」
「狼……じゃないわよね?」
あっ。
忘れてた。
「拾ってきた……っていうか、拾われてきた感じだったわね?」
二人の視線の先には、当たり前のような顔をして座るミカヅキがいた。
おぬし、何見とるんじゃ。
親子の愛くるしい姿を見てるでないわと抗議したいところではあるが。
「ねむい……」
ふあーあ、と大きなあくびをする。
大泣きするのを堪えたはいいが、今度は抗いがたい眠気に襲われておる。
「おいおい、ずいぶん疲れたみたいだな。まったくうちのお姫様はワンパクで困る」
「なんで子供って、魔道具の魔力切れみたいに限界まで動けるのかしら」
「俺たちもそうだったんだよ、きっと。忘れちまっただけで」
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