バンドマンが妖精を見てしまったようだ

宝木望

第1話

「どうすればいいんだよ! 」

 思わず、俺は声に出して言った。俺はそれぐらい、悩んでいた。

 

 俺はバンドマンで、ギターをやっている。俺たちのバンドはインディーズバンドだが、メジャーから声がかかっており、もう少しでメジャーデビュー出来るかもしれない、という時だった。 


「3曲くらい、曲、作っといて」

 ボーカル兼リーダーのリョウタに言われた。作曲が出来るメンバーは俺しかいない。責任重大だった。なのに曲が出来ない。一曲も。明日はバンドの打ち合わせがあるのに。

 リョウタはいわゆる、「天才」だ。すらすらと何も考えない(ように見える)で、歌詞を書ける、そんなヤツだ。もちろん歌も上手い。

 一方、俺は努力の人。俺も「天才ギタリスト」なんて言われたりもするけど、それは努力したからだ。楽器はいい。努力すれば音になるから。


 そんなわけで俺は曲が出来ずに、うんうんと、唸っていた。

 

 すると、目の前に手の平ほどの大きさの妖精が現れた。羽が生えており、短いスカートをはいている。とても可愛かった。(あのスカートの下には下着をつけているんだろうか・・・)と思っていると

「いやらしいこと考えないでください」

 と妖精が言った。うわ、しゃべった。これ、やばいやつだ。俺は酒もタバコもやらない、健全人間なのに、どういうことだ?

「あなたを助けに来ました」

 妖精は次にそう言った。

「おお、今、助けが必要な時だ。助けてくれ」

「プライドがないのですね」

「ないない」

「あきれましたねぇ。どうしましょう」

 妖精にあきれられてしまった。でも俺は曲を作るというミッションを完了させなければ、いけない。

「もし私が作ったら、それは、あなたの曲ではないでしょう? 」

 と妖精は問いかけた。  

「それもそうだな」

 俺が考えこんでいると

「変な所で真面目なんですね。めんどくさい」

 妖精が本性をあらわしてきた。イメージが崩れる。

「じゃあ、こうしましょう。魔法をかけますから、その間に曲を作ってください」

「わ、わかった・・・」

「とっとと作ってください。はい、イチ、ニイ、サン・・・」

 

 メロディがたくさん、あふれてくる。でも、それをみんな形にすることは出来なくて。これが俺の実力なんだな、と思った。

 そして俺は意識を失った。

 

 次の日、

「リョウタ、頼まれた作曲なんだけど、サビの所しか出来なくて。ごめん」

「いいよ、セッションしながら形にしていこう」

 リョウタはあっさり、そう言った。他のメンバーも満足そうだった。

 こうして、俺たちのバンドはメジャーデビューへの一歩をふみ出したのだった。

 

 あの妖精の正体はいったい何だったのか。それは判らない。

 ただ、今だから気づくことは。妖精は俺に似ていた。声が似ていた。俺が女の子の声の真似をしている時に、そっくりだった。

 妖精は俺が作り出した幻だったのかもしれない。

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