4章 7話

「でも、ボツにするのは勿体なくないっすか? 皆が言うように、内容は面白いんで。……実現できるように、大幅修正の方向性ついて話し合いません?」


 武内君が手を上げ、意見をくれた。

 僕は……彼の期待に、応えられてるのかな?

 いや、話は面白いと言ってくれてるんだ。

 劇に熱い武内君なら、ダメならもっと怒りを顕わにするはず。

 こういう作品を向上させるための、建設的な意見は助かる。やってやろうって気になる。


「……春日。俺も、この台本は面白いとは思う。ボツにするには勿体ない。だが裏方も含めた動きを入れたら、一時間は余裕で超えるしテンポも落ちる。裏方の動きも踏まえて、週明けまでに修正できるか? できないなら、俺がイジるが」


「いえ、やってみます! やらせてください!」


「……そうか。初めて書いた本をこれだけ皆から、あれこれ言われたら心が折れてるかと思ったが……。お前は強いな」


 僕が、強い?

 違う。作品を、劇をよくしようと伝わる意見なら――心は折れない。


 本当に強いのは、作品と関係ないところで心をぐちゃぐちゃにされても……。立ち上がろうとする心を持ち続けられる人のことだ。


「こんなところで折れてられません! 部長。せっかくチャンスをくれたのに、すいませんでした!」


「気にするな。一発で台本が通るわけがないんだ。俺だって、未だに何度もコイツらからボロクソ言われるんだからよ」


「え、部長でも、ですか?」


「ああ。創作家なんて、皆そんなもんだ」


 そうなのか。

 それなら――この苦しい体験も、将来脚本家になることへ繋がる晴らしい経験ってことだな。だとすれば、今は辛く感じていた言葉すらも、ありがたく思える。


「……念のため、俺の方でも修正台本を書いてはおく。――だから、挑戦してみろ。来週頭、二校をくれ。皆も二校を見てから、改めて細かい動きの修正と確認をする。それでいいな!?」


 部長の言葉に、皆が頷いてくれる。

 とにかく、ボツにならなくてよかった――。



 家に帰ってから、そして夜行バスの移動時間。

 ひたすらに自分で頭を悩ませ修正案を考えた。

 しかし、どうにもセットや衣装チェンジなど……。

 流れるようにスムーズな舞台が想像つかない。


「チャレンジはしてみたんだけどさ……。上手く行かないなぁ。僕は長いこと裏方に徹してたはずなのにね。全然イメージできないとか、観察が足りなかったのかなぁ」


 一枚の扉越しに、彼女へ相談を持ちかける。

 通話やメッセージでも触りは話したけど、詳しくは直接話したかった。

 やっぱりラグがない距離で話した方が、誤解なく伝わりやすいと思うから。


『つまり、イメージができないのが原因だよね?』


「うん。……多分? 実際に上演してから問題が浮き彫りになっても、遅いけど――」


『――シーン一から、実際にやっていこう?』


「……え?」


 薄い戸越しに聞こえた声なのに、ハッキリと聞き取れたのに……。

 何を言ってるのか、理解できなかった。



―――――――――――

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