4章 6話
『――演劇台本!? うわぁ、私は書いたことないけど、楽しそうだね!』
「楽しい挑戦だけど、声劇と違って人数が多くてね。違いも色々とあるだろうし……。裏方ばっかりじゃなくて、ちょい役でも早くから挑戦して実体験を積んでおくべきだったなぁ~」
『う~ん。それこそ、今さらだね。私は未熟な演じ手だから、人物的なところだけなら力になれると思うけど……』
演じ手と書き手じゃあ、全く違うよな。
自分の挑戦なんだから、彼女に頼るを超えて――依存はダメだ。
優秀な演者に台本をチェックしてもらえるぐらいで丁度いい。
「それだけでも助かるよ。元劇団所属、頼りにしてる」
『全力を尽くします! あ、もらった台本の声データ、送るね』
「早いね、さすが。僕の録音と動画とかイラストは、演劇台本を優先してやるから。ほんのちょっと、待っててね。仮眠生活で頑張って進めるから、具体的なスケジュールは――」
『――ちゃんと寝て! 動画の方は急がなくていいから!』
冗談じゃなく怒られた。
僕の立てたスケジュールは、動画作成に関わるものが後ろ通しになり……。
結果、睡眠の時間が大幅に増えた。
怒るぐらい僕の身体を心配してくれるのは、ありがたい。
その後、部員の数や過去の配役数を参考に台本のプロットを立て、本文を書き……。
『わ、私は……。ただの、無名な音楽家ですから』
『ちょっと! いつまでこんなところに閉じ込めてる気!? もう付き合ってられないわ!』
『お母さん……。僕たち、帰れないの?』
『あ、待って! これ、おかしくない? なんでここに、あの人の持ち物が落ちてるの?』
彼女が演じられそうなものは、実際に演じてもらって微調整をした。
波希マグロさん、どれだけ演技の幅があるんだ。
さすがに、一日では書き終わらない。
しかしたった四日で、台本の初稿が完成した。
文化祭での上演時間は、四十五分から五十分程度。
おおよそ二万文字の台本だ。
演劇用のト書きなんて初めてだったにしては、かなり早く書けたんじゃないだろうか?
手探りではあるけど、これを提出して部内で話合おう――。
「――おお、面白い台本じゃん!」
「うん。いいね、感情の流れもスッと入ってくる」
「序盤の謎かけもフック効いてて面白い。盛り上がり場面もハッキリしてるし。古い洋館で事件に巻き込まれ、脱出できなくなる。ありがちだけど、面白いよ」
迎えた金曜日。
僕が持ち込んだ台本を人数分印刷し、演劇部のミーティングが開催された。
演じ手の評価は凄くいい。
だけど暗い顔……。
いや、悩ましい顔をしてる人たちもいる。
「あの……。僕の台本、面白くないですか?」
恐る恐る聞いてみる。
僕の魂を削って創った創作物だけど……。
結局、皆で魂を込めて創り、舞台で披露する作品だ。
批難を恐れて、自己満足にしちゃいけない。
「いや、う~ん……。話は面白いし山場もいいけど、実現するには……ね。想像してみたけど、セット入れ替えに使う間が空きすぎじゃない?」
「これだと、裏方がどう動けばいいか浮かばないです。スタッフの動きとか、シーン入れ替えの順番とか。調整しないとかなって……。勿論、お話は面白いと思いますけど!」
「美術スタッフとかの動きも考えてほしいな。春日君なら、その辺も分かると思うんだけど……」
「血塗れで倒れてる被害者を発見するか~。いいんだけど、文化祭のステージ照明だと、さ。観客には照明が灯った瞬間、丸見えだよ? 服装も血塗れに着替えるなら、テンポがなぁ……」
僕の素案として持ち込んだ台本を手に、裏方メインの人たちが意見をくれる。
その一つ一つが、僕にとっては盲点で……。
裏方仕事に徹してた僕は、そこにも配慮して台本作りをしないとダメだったのに。
全然……気がついてなかった。
声劇と演劇の台本じゃ、全然異なるものなんだって……。
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