4章 4話
『そう、だね。今の自分が許せない。七草兎さんに顔を合わせてお礼も言えない自分が、情けなくて仕方がないよ……。信じてるのに、なんで身体が動いてくれないの~って……』
「気持ちは嬉しいけど、ネガティブな感情を持つのも人間じゃない? その感情を大切にしてるからこそ、ポジティブに強くステップする土台が固まって、回復に向かうのかもなって。勿論、君が嫌ならこれは破棄しよう?」
自分を――情けない、こうあらなければと追い詰めるのは、かえって心を軋ませるらしい。
まずは、そんな自分も認め、受け入れてあげることも必要な段階だと教わった。
だけど……。
本人がやりたいと思えない時の無理強いは、よくないからね。
『……やる、やりたい』
君の抱えた問題を一緒に共有して、解決に向かって努力をしたい。
『この役に入り込んで自分を同一化したら、また何かが変わる気がする!』
君が心から楽しむ声を、鼓膜から心を揺らす演技を――僕は世に届けたい。
『七草兎さんの思いやりに応えたい。今の自分を変えられる可能性があるなら、私は君を信じてなんでもするよ!』
そのためなら僕は、君が立ち上がれるように全力を尽くすから。
「よし! じゃあ書くよ! リアルタイムで画面共有するからさ、読んでくれると助かる」
『うん! セリフのイメージがつきやすいように、心を込めて読むね!』
僕たちは、顔も合わせないオフ会を繰り返す。
一緒に創作して、好きとも伝えられない制約の中で、想いを創作物に込め続ける――。
週明け。
演劇部では、部長など一部が集まっていた。
「文化祭まで二ヶ月だけど、次の演題はどうしよっか」
「う~ん。部長も受験の雲行き、怪しいしなぁ……」
「うっせ。……まぁ俺が書き下ろすか、それとも既にある台本をやるか、だろうな」
部長や副部長。
これまでメイン級を担ってきた人たちが頭を悩ませてた。
未だに発声やら滑舌の基礎練習をしてたけど……。
勇気、出してみるか!
彼女が現状を変えようと頑張ってる中、僕は悔しい現実をそのままにしておきたくない。
ネットの世界だけに留まって、踏み出すのを恐れるな。
リアルでも挑戦をしろ!
「――部長! 僕に台本を書かせてくれませんか!?」
「……え? 春日、お前、台本書けんのか?」
まさか、僕が口を出してくるとは思わなかったんだろう。
皆がポカンとしてる。
「じゅ、十分に書けるかは分からないですけど。一応、こういう台本を書いてます!」
焦りながら、スマホで自分が投稿したボイスドラマ動画を再生する。
「……へぇ。結構、再生されてるのな。反応もいい」
「女の子、演技うまぁ……。春日君の演技は、まぁ置いとこう。今は物語が大切だもんね。うん!」
置いておかれた。
相変わらず演技が下手くそな自覚はあるから、仕方がない。仕方がないから!
やがてボイスドラマ動画も終盤に差し掛かり、物語の全容が見えてきた。
「……いいんじゃないっすかね。晴翔にやらせても」
武内君が真剣な表情で意見してくれる。
―――――――――――
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本作はカクヨムコン10に参加中の作品です。
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