演技を真実に
4章 1話
九月中旬。急速に朝と夜が冷え込み始めた。
先輩たちの公演は、つつがなく終わった。
涙を浮かべ「正式な引退は文化祭後だからな」と叫ぶ部長に釣られたのか、三年生の先輩たちも泣いてた。
裏方に徹した僕の横を通りすぎるとき、「不完全燃焼だ」と悔しそうに告げた武内君の表情が忘れられない。
多分、集中が足りなくて配役を取れなかった僕に向けた言葉じゃないと思う。
武内君は、部長の書いた台本の人物造形に不満を抱いてたから。
もっと掘り下げた人物の物語が演じたくて、悔しかったのかもしれない。
台本を書くようになってから、演技者の抱くそんな感情の機微も分かるようになってきた。
やること、やりたいことは山のようにある。
イラストの有償依頼も安めの価格設定なだけあって、それなりには来る。
バイトも増やして、交通費と返済代金を稼がなきゃいけない。
両親との約束だから、成績だって下げるわけにはいかない。
今の僕が、特に力を入れてるのは――。
「――ここの効果音、背景も考えると……。こっちの方がいいかな?」
『う~ん。どっちも違う気が……。あ、これなんかどう?』
「お、いいね! これなら自然だ。これにしよう!」
動画制作。
台本を書いて、読んで。イラストを描いて終わりじゃない。
ボイスドラマを動画投稿サイトに上げるなら、効果音とかイラストが動くとか……。
そんな動画編集技術もあった方がいい。
幸い、効果音に関しては完全使用フリーの有名サイトがある。
山のようにある音声ファイルを探し、画面共有で波希マグロさんと一緒に動画やイラストを仕上げていく。
肝心のボイスは、今回は最後に組み込んで調整だ。
一応、目安で仮に録音したボイスデータはあるけど――。
「――最近、リモートレッスンはどう?」
『うん、順調! 顔を見せられないって条件で困らせちゃったけど、よく教えてくれてるよ! 昔以上に、活力や間近の目標もあるしね! 負けない、見返すぞ~。いい演技、披露するぞって気持ち!』
「よかった」
彼女は、部屋からでも可能なボイトレレッスンを再開した。
これまでも自主練は続けてたらしいけど、やっぱりプロの先生が教えてくれるのは大きいらしい。
凪咲さんからも『妹が活き活きしてる。パパも大喜び。今度来たら、美味しいお弁当作っておくからね』と喜びのメッセージが届いてた。
『七草兎さん、疲れてきてない? 声に張りがなくなってるような?』
「あぁ、ごめん。ちょっと声に張りがなかったかな? 緊張する場も最近、多かったからかな?」
『緊張する場って、舞台とか?』
「違うよ。……僕の両親に頼んで、その道のプロに時間をもらって取材というか。色々と教えてもらってたんだ」
両親の伝手を頼って、色々と相談してた。
相談相手や内容を話すと、彼女は嫌がるかもしれないけど……。
『そうなんだ。なんか格好いいね。身体に疲れはたまってくだろうから、無理はしないでね?』
「うん。ありがとう。……だけど、やりたいことは全力でやりたいからさ」
『……そんなこと言われたら、止められないじゃん。取材して、いいのが書けそう?』
「どう、だろう。……少し怖い、かな。挑戦というか、反応がさ」
その後も、僕が濁してるからか、彼女は不思議そうに心配してくれた。
今、早くも次の台本を書いてる。その内容が、吉と出るか凶と出るか……。
まだまだ全てがこれからの段階だけど……。
創作は、構想や過程すらも楽しいんだよなぁ。
それが大好きな人との共同制作なら、なおさらだ――。
―――――――――――
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!
本作はカクヨムコン10に参加中の作品です。
楽しかった、続きが気になる!
という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!
読者選考やランキングに影響&作者のモチベーションの一つになりますので、どうぞよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます