3章 10話

 何を言われたのか分からないのか、呆気に取られた声が聞こえてきた。


『え、私が、声の演技で、有償依頼を?』


「そうだよ。一文字いくらとか、一ワードいくらで個人が受けるみたいな仕事。事務所とか関係ない、フリー声優って知らない?」


『……知らなかった』


 スクールで実績を積んで、オーディションに合格して事務所に所属とか。

 アニメや映画、舞台やミュージカルの場を順調に目指してた彼女は、知らなかったのかもしれない。

 事務所で活動するのとは別名義でやってる声優さんもいるって話だけど。


 まだそこまで深い……副業的な世界は、視野に入れてなかったのかな。


「波希マグロさんなら、大人気で依頼が舞い込みそうだなぁ~。同人とか、個人制作も流行ってるらしいから」


『ちょ、ちょっと待って! 私、私なんて……。まだまだスクール生の段階で、お金もらって演技をできるレベルじゃないよ!?』


「僕のイラストだって、そんなレベルとは名乗れないよ。自分で名乗るほど、傲慢にはなれない。……買い手が、お金を払ってでもやってほしい。だから、やる。有償依頼って、そういうものじゃない?」


 物の価値は、買い手が決めるんだ。

 勿論、個人でやるからトラブルは起きやすいだろうけど……。

 そこは家の教育方針で、契約やらお金の管理やらトラブル対策やら。

 色々と叩き込まれてる僕も、多少は力になれると思う。


「できるかできないか。今の段階でそれを言うのは、早いよ。宣伝にもなるボイスドラマ動画を含めてさ。やりたいか、やりたくないか。それを教えて?」


 ちょっと卑怯な言い方だったかもしれない。

 元々、声劇アプリで色んな人が聞けるコラボ募集動画を上げてた波希マグロさんだ。


『――やってみたい、やりたい』


 絶対、こう答えると思ってた。


『大人気になって、私をいじめた子を見返したい! お金を頂いて、七草兎さんの交通費を返したい! 何より――たくさんの人の、心に響く演技を届けたい!』


 そうだよね。

 波希マグロさんは、演じるのが大好きだもんね。

 それなら僕は、君が望むことができるように――。


「――全力を尽くすよ。一緒に創ろう。僕たちのボイスドラマ、そして将来を!」


 互いに抱えた問題を解決する糸口が見えた。

 僕たちで一緒に、夢へ辿り着く道を紡ぐんだ――。



―――――――――――

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