3章 5話

 両親を説得する材料を調べるのに夢中で、気がつかなかった。

 何通も何通も、僕への謝罪とお礼。

 無事に家へ戻れたかといった内容のメッセージが届いてる。


 すぐ『無事に着いたよ。今日はありがとう。驚かせてごめんね』と送ると――通話がかかってきた。

 この時間に、起きてたのか? 

 早寝の波希マグロさんが?


「も、もしもし?」


『もしもし!? よかった、無事でよかった……』


「お、おおう……。そんなに心配してくれたんだ?」


『当たり前だよ! お姉ちゃんたちが呼び出してたのだって、さっき知って……。謝られるのは嫌って分かったけど、これだけは謝らせて。本当に、ごめんなさい!』


 それだけのために、眠いのを我慢してたの?

 君の住んだ美声を扉越しの距離で聞けたから、お礼を言いたいぐらいなんだけどな。


「これからも、会いに行くよ。波希マグロさんが嫌がらない限りさ」


『嬉しい……けど。遠いから負担になっちゃう。だから、無理しないでいいんだよ?』


「大丈夫。僕の画面、共有するね」


『え?』


 スマホの画面を共有して、SNSアカウントを見せる。


『有償依頼……』


「そう! 今までは、お金をもらう自信もなかったんだけどね。波希マグロさんに褒めてもらって……。君に会うためには覚悟を決めようって。これは僕の夢にも繋がると思う。つまり僕のためにもなるんだ」


『……そっか。応援する! でも――私に会うために、時間とお金をかけて来てくれるのは変わらないよね?』


 時間を持ち出されると痛い。

 七時間のバスの旅とか、夜の移動とか……。

 並行して演劇部とスクール、アルバイトに勉強だってある。

 これからに不安がないかといえば、それは嘘になる。

 一番の不安は、本当に君の問題を解決できるか、だけどさ。


「何とかするよ。僕、根性と行動力には定評があるから!」


『……払う』


「え?」


『私に会いにきてくれるなら、その分の交通費は絶対に払う! い、今はお金を稼げないけど……。お金を稼げるぐらい状況を改善させて、絶対に払うから! 受け取らないとか、ダメだからね! 友達にしても、その、あれな関係にしても……。対等でありたいの!』


 譲らないぞ、という強い意思を感じさせる語調に――ぷっと吹き出してしまう。


『な、何で笑うのかな!? 真剣なんだよ!?』


「いや、ごめんね! つい、一人の顔が頭によぎってさ!」


 君の、お父さんの顔が。

 絶対に今日の交通費を払うと譲らなかった。

 あんな厳つい、お父さんと君が似てるなんて……。

 やっぱり親子なのかな。見た目も、ひょっとしたら似てるのかも?

 まぁそれでも、僕の気持ちは揺るがないけどね!


『……なんかさ、失礼なこと考えてない?』


「いや、考えてないよ。波希マグロさんって、お父さん似なの?」


『失礼なこと考えてるじゃん!』


 お父さんに外見が似てることは、失礼なこと扱いだった。

 どんまい、お父さん!




―――――――――――

ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!


本作はカクヨムコン10に参加中の作品です。

楽しかった、続きが気になる! 

という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!


読者選考やランキングに影響&作者のモチベーションの一つになりますので、どうぞよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る