2章 7話

「あ、もしもし? はい、予定より早く進んでますよ。凄く鋭くて、前倒しになってしまいました。……ええ、凄く怯えて、後悔してる顔をしてますよ。はい、ご安心ください。必ず送り届けますから」


 隣で女性が誰かに通話をかけ始めた。

 僕を誰かに受け渡す、のか?

 向かっている方向、看板を見ると――茅ヶ崎ICと書いてある。

 地名は分からないけど、覚えておけば命が助かった時に助けを呼べるかもしれない……。

 電話先の誰かに受け渡されるときに、なんとか逃げだす方法を考えるしかない、か……。


「降りるぞ」


「はい、お疲れ様」


「……ここは、どこですか?」


「港だ」


 船で輸送されるパターン……。

 なんてことだ。ニュースやネットの都市伝説だと思ってた。

 海外に、僕を売り飛ばすってこと、か?


「ほらほら、降りて」


 ぐいぐい車から降りるよう促す女性。

 この力なら、振りほどいて逃げられるか?

 そう思ったけど、ドアの前に運転をしてきた男性がいて……。その手は使えないと悟った。

 もう本格的に、ダメかもしれない。

 結局、車から降りるなり人気がない堤防へと連れていかれる。


「……小僧。この景色を、どう思う?」


「……普段なら、凄く綺麗だと思うでしょうね」


「ふん。素性も定かじゃねぇネットの相手に誘われて、ここまできたことを後悔してるか?」


「……彼女を騙る人に気がつかなかったことを、反省してます」


 スキンヘッドの男が鼻で笑った。

 少し不機嫌そうだ。


「七草兎君さ……。波希マグロのことを、どう思ってんの?」


「……あなたたちは、波希マグロさんを知ってるんですか?」


「質問してんのはこっち」


「……彼女は、大好きで、笑顔にしたい人です」


 女性は厳しい目付きで僕を見つめ、尋問するような声音で聞いてきた。


「へぇ……。こんな怖い目に遭っても?」


「彼女は何一つ悪くない。悪いのは彼女を騙って悪さをする、あなたたちです。……それと、危機感と注意力が乏しかった僕が悪い。それだけです」


「ふぅん。……彼女と関わったから、こんな目に遭ったのに、か。次また理不尽な目に遭っても同じことが言えるんかな? もし彼女と二度と関わらないなら、見逃してあげるって言ったら、どうする?」


 言外に、波希マグロさんと関わるなら見逃さないと言ってるのか。

 正直、恐怖で身が震えるような思いだけど……。


「……僕は彼女に告白をした時に、宣言したんです。彼女の笑顔のために何でもする。どんな問題も一緒に乗り越えるって。次があるかは、この危機的状況とか彼女との関係から分からないですけど……」


 別れないか提案されて保留の関係、連絡すらつかない状況だけど……。

 別れてない以上は――僕にとって何より大切な、彼女だ。


「もし次があるなら、必ず同じことを言います。両親が教えてくれたように、もっと安全に注意しながら彼女が笑えるよう、一緒に問題を解決して……。離れろ、関わるなと彼女に本心から願われれば、離れて陰から幸せを祈りますよ」


 この状況で何を言ってるのかと思うけど……。

 母さんから教えられたように、最後まで自分のやりたいことを貫く。

 何より、大好きな彼女を裏切ることなんてできない。

 我が身可愛さに彼女を裏切ったら、一生後悔して生きていくことになる。

 そんなのは、絶対に御免だ。


「ふぅん。……だってさ、どう思う?」


 女性が厳つい男性に問いかけると、男性は腕組みをしながら口元を歪めた。

 明らかに不機嫌そうで……。これから船に乗せられて売られるか、海に沈められるのか。

 最悪の展開が脳内に浮かんでしまう。


「……チッ。肝の据わったガキだ」


「つまり一次試験は突破ってことでいいね? 私も同じ意見だわ」


 試験?

 何のことだ?



―――――――――――

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