2章 5話

 知らなかった彼女の情報を、このタイミングや状況で知ったのは複雑な気分だ。


 画像を保存し、両親に送ると――『新幹線の切符の買い方は分かるか?』とメッセージが返ってきた。


 それは実質、認めるということだ。

 切符の買い方なんて、ネットにいくらでも情報があるだろう。

 現地で迷ったら、駅員さんとかに聞けばいい。なんでも両親に頼ってばかりじゃダメだ。

 日付は両親がすぐに僕からの連絡を確認できる土日がいいだろう。


 波希マグロさんへDMを送る。


『急でごめんだけど、次の土日のどちらかでオフ会できる?』


『私も土日がいいと思ってた。土曜日で大丈夫だよ。何時に八王子こられそう?』


『始発に乗っていけば9時ちょいとか。早すぎるかな?』


『帰りもあるもんね。大丈夫だよ』


 話は、流れるように進んだ。

 拍子抜けする程にあっさりと、彼女とのオフ会が決まった。

 彼女と会える。楽しい話じゃないかもしれないけど、会って真意を聞けるかもしれない。

 それだけで、穴が空いたんじゃないかと思う程、空虚だった僕の胸に嬉しさが満ちた――。



 迎えた土曜日。

 眠れなかったから、徹夜でイラストを描いて家を出た。

 まだ朝の五時にもなってないのに、両親が心配そうに見送ってくれる姿を見て……申し訳なさと、二人も挑戦してるのかもしれないと思った。

 学校で可愛い子供には旅をさせろ、という言葉があると習った。

 成長を促すためのものらしいけど、注意されたように旅で危険はつきもの。

 ましてや親からすれば、信頼関係のないネットで会った人に会う旅なんだ。それは心配だろう。

 交渉の余地なく否定されなかったのは、僕がとんでもない顔をしてたから、かな……。


 そんなことを考えつつ、約束通り一時間ごとに状況をメッセージして――八王子に到着した。

 時計を見れば、もう約束の時間が近い。


 トイレの鏡で変なところはないかチェックし、待ち合わせに指定された場所へ向かう。

 駅近くだけど、少し人目がない店の前だ。

 これなら確かに、お互いを見つけやすい。

 服装とか一八〇センチメートル越えの身長は伝えてあるけど。

 似た人なんて、たくさんいるからな。


「ああ……。緊張して、口から心臓が飛び出そう」


 何度も、何度も何度もメッセージを交わしてきた。

 通話でも、何度も声で繋がってた相手なのに……。

 顔を合わせて直接会う距離になるだけで、こんなにも緊張するものなのか。

 初めてのオフ会に新鮮な気持ちと、見た目を気持ち悪いと思われないかな、とか……。


 不安で一杯の中――。


「――あの、七草兎さんですか?」


 僕のハンドルネームを呼ぶ声が聞こえた。


「え……。もしかして、波希マグロさん?」


「そうだよ! 初めまして! スマホで聞くより、声が少し低く聞こえるね?」


 ニコッと笑う、肩ぐらいまでで切った黒髪ボブカットの女性。

 確かに、ネットを介してるから、スマホで聞くときと声が少し違うのはある話だろう。


 でも――。


「――あなた、誰ですか?」



―――――――――――

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