1章 25話

 それから――ストンと、何か腑に落ちた気がした。妙に納得した。

 そっか。やっぱり、僕と付き合うのは、苦しかったのか。

 だけど、さ……。


「……ねぇ」


『何?』


「なんで……別れようって言った方が、そんなに泣いてるの?」


『泣いて、ない。私に泣く資格なんて……。そんなの、全て私が悪いのに、そんな資格なんてないから』


 嘘だ。

 どう考えても、涙声じゃないか。


「僕のことが好きじゃなくなった……。いや、好きじゃなかったなら、それは僕の魅力が――」


『――そうじゃない! 七草兎さんは凄く魅力的で素敵な人! その気持ちは変わってない! これは、私の問題。私が全部悪いから、だから……』


 おかしい。

 そもそも好かれてなかったとか、嫌いになったとかじゃないのに……。

 なんで別れなきゃいけないんだ?


「僕のことが気持ち悪いとか、嫌だとかじゃないの?」


『違う』


「じゃあ……やっぱり遠距離恋愛とか、ネットからの出会いは厳しかった?」


『それも、違う。私のせい、私が弱くて、自分に勝てないから! だから、ごめんなさい……。本当に、本当にごめんなさい!』


 彼女は明らかに、取り乱してる。

 別れる理由だって『自分が悪い』、『自分の問題』ばっかりだ。

 それじゃ……僕だって、諦めきれないよ。


「僕が悪いなら潔く別れるけどさ……。その理由じゃ、僕だって別れようなんて言えないよ」


『ごめんなさい。本当に、ごめんなさい!』


「もう謝らないで。とりあえず、その理由なら別れ話は保留にしよう? 落ち着いてから、話そう?」


『うん、本当に、ごめ――……。分か、りました』


 僕が謝らないでと言ったからか、彼女は言葉を変えた。


「じゃあ、今日は切るね。気に病まないで、落ち着いて。……またね」


『……はい』


 通話時間の数字ばかりが増えていき、お互いに声を発しないスマホを見つめる。

 スピーカーからは、何も聞こえない。

 数秒、数十秒と時間の数字ばかり進んでいくのを見て――僕は、通話を切った。


「……どういう、ことなんだ」


 振られた。

 かと思えば、彼女は自分を責めてばかりで……僕への気持ちは変わってないと言う。

 どれだけ考えても分からず、頭を抱えてしまう。


 とりあえず、明日以降……。

 また連絡しよう。

 そうやって落ち着いてから、話し合おう。

 その結果、振られても仕方がない。

 それで彼女が幸せになるなら、それでいい。

 いいことは続くのかもしれないと思ってたけど……。

 いいことがあったからには――揺り戻しのように、嫌なことや不幸もあるのかもしれないな……。


 有名な人が『絶望の隣は希望です』とか言っていたけど、逆にいえば……。

 希望のすぐ隣には、絶望があるのかな……。


 そうして翌朝、終業式へ行く前に彼女へメッセージを送った。夜にも、謝るようなメッセージを。

 だけど……。

 彼女からメッセージや反応がくることは、もうなかった――。



―――――――――――

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