1章 20話

『私なんかで……。目も当てられないぐらい問題だらけの私なんかで……。本当に、いいのかな?』


「君じゃないと、ダメなんだ」


『……なんで、そこまで』


「僕の……初恋だから、です」


 ネットがなければ繋がりなんてなかったはずなのに、運命を感じたほどの人だから。

 今まで誰からも都合よく利用されてばっかりの僕を救ってくれた、君だから。

 初めての感情をくれた、君だから。

 笑顔にしたいと心から思った、君だから。


 理由を挙げれば、いくらでもでてくる。

 でも、端的に……。やっぱり、普通じゃない出会いと分かってても、好きで仕方ないからだ。


「俺と……付き合ってくれませんか?」


『……断れない、断りたくない』


 ゴクリと、唾を飲みこむ。

 これ以上ぐいぐいと押すのは、よくないと思う。

 彼女が、彼女の意思で決断してくれるのを待つ。


 それは数秒か、数十秒だったのか――。


『――よろしく、お願いします』


 彼女から、肯定の声が返ってきた。

 全身を走り抜けるような昂揚感が、全身を駆け巡る。

 待ち望んだ彼女の声が鼓膜へ響いた瞬間、脳に幸せが満ちた。


「よかった……。よかった! あの、その……。きゅ、急に戸惑うようなこと言って本当にごめん! でも気持ちを受け入れてくれてありがとう!」


『私こそ。こんなに、こんなにも想いがこもった告白は、初めてだったよ……』


「その……。これからは、彼女と彼氏ってこと、だよね?」


『そう、だね。そうなります、ね?』


 照れた彼女の声に、僕まで恥ずかしくなる。

 暗い室内、眠気なんて吹き飛んだ代わりに、身体中が興奮して止まらない。


 どうしよう、どう接するのが正解なんだろう。

 とりあえず、挨拶?


「これから……よろしくお願いします」


『あ……。私こそ、文字どおりの不束者で本当に迷惑とか不便をかけると思うんですが……。よろしくお願いします』


「……お互い、敬語ですね」


『そう、ですね』


「……戻そっか?」


『う、うん。そうだね、戻そう!』


 なんだろう、この会話。

 顔から火が出そうな程に恥ずかしいんだけど?

 これが誰かと付き合うって感覚、なのかな。


『あ、あの! 寝よっか! 七草兎さん、眠かったんだもんね!?』


「そ、そうだね! 波希マグロさんも、いつもは寝てる時間だもんね。夜更かしは、よくない!」


『じゃあ……お休みなさい』


「うん、お休み」


 彼女との通話が切れたディスプレイを見つめる。

 何時間と続いた通話。

 僕の迂闊な発言から、予想外の事態になったけど……。

 その時、チャットで『本当に、凄く嬉しい。問題だらけでちゃんと彼女できないかもだけど……。チャレンジしてみるから! ゆっくり寝てね。お休みなさい』とメッセージがきた。


 彼女が、どんな問題に悩んでるかは分からない。

 もしかしたら、ネットからの出会いなんて認めないとか、親に言われるのかも?


 僕も、親になんて説明したらいいか分からないし、それはそうか。

 ああ、でも……。


「……めっちゃ、嬉しい」


 返事のメッセージを送り、布団に入る。

 スマホを握り続け、意識が途切れるまでメッセージのやり取りをしていた――。



―――――――――――

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