1章 16話

 好き。

 琴のように美しい声音から発せられたその言葉に、ペンを持つ手が一瞬とまる。


 彼女は無意識だ。僕自身に言った言葉じゃない。イラストに対してだ!

 そう言い聞かせ、熱い顔と動揺を悟られないように作業を再開する。

 僕の努力とかを認めてくれただけじゃなくて、好きとまで言ってくれるなんてさ……。


 もう、嬉しすぎておかしくなっちゃいそうだよ。

 いつもは悩んで止まりがちなペンも、彼女の意見を聞きながらスラスラと進んでいく。

 こんなスムーズに描けたことなんて、今までなかった。

 やっぱり波希マグロさんは僕の中で……。


 いや、抑えろ。

 感情を暴走させて、この関係を壊したらダメだ!

 ひたすらに作業を続け――。


「――よし、完成!」


『お疲れ様! 本当、綺麗だよ! 色がこんな鮮やかで、淡い光も綺麗!』


「ありがとう。こんなに筆がのるというか、早く描けたの本当に初めて! あ、というか、もう日付がとっくに変わってる! 眠くない!?」


『本当だ! みとれてて全く気がつかなかった。眠くならなかったしね!』


 いつも早寝で、寝落ちさえしてしまう彼女らしくない。

 それぐらい、本当に退屈せず見ててくれたんだろう。

 もう、嬉しすぎて……。

 気持ちが溢れ出しそう。


「眠かったら無理しないでね? 時間的には遅いけど、SNSの投稿どうしよっかな」


『いつもは夜に投稿しないの?』


「うん、アクティブユーザーが多い帰宅時間から夕食直後ぐらいの投稿が多いかな?」


『だったら、偶には深夜の投稿もいいかもね! 土日だし、起きてる人とか多そう。七草兎さんの投稿を普段見ない人の目にも入るかも?』


 それは確かに。

 SNSで皆が活発な時間は、見てる人も多いけど投稿が流れるのも早い。

 この時間なら、普段は僕の投稿を見てない多くの人の目に入るかもしれないな。


「了解。そんじゃ、転載禁止とかユーザー名を書き加えて投稿……っと」


 悲しいことに、こういう注意を払わないとイラストを無断転載したり、自分が描いたと言う人も出て来る。

 僕の描いたイラストで、そんなことをする意味があるのかな~とか、思うけど……。

 他にイラストを描いてる人の迷惑にもならないよう、ルールを守って投稿する。


 ルール……。

 ネットで知り合った人に特別な感情を抱くのは、ルール違反じゃない……のかな?


『投稿できた?』


「う、うん! できた、できたよ!」


『なんで焦ってるの? あ、描き上がった興奮か。いいものが見られたなぁ。私、幸せ』


 僕も幸せ。

 そう言うのも、彼女とは意味合いが違う気がして……。

 思わず、口を閉じてしまう。


『七草兎さん、疲れてる?』


「そう、だね。……こんなに集中して打ち込めたのも初めてだったからかな。少し休憩」


 僕はスマホだけ持って、ベッドへ横たわる。

 腰と肩がバキバキだ。

 試験が終わったばっかりで、なんだかんだ精神も疲れてたのかも。

 いい感じに肉体も精神も疲れてたのか、布団へ吸いこまれるように気持ちいい。

 そこに彼女の声で労う言葉までくれるもんだから……。

 夢見心地ってのは、こういうことを言うんだろうな。今、天国にいるのかもしれない。


『休憩も大切だね。……ね、七草兎さんはさ、なんで私に声をかけてくれたの?』



―――――――――――

ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!


本作はカクヨムコン10に参加中の作品です。

楽しかった、続きが気になる! 

という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!


読者選考やランキングに影響&作者のモチベーションの一つになりますので、どうぞよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る