1章 14話
『あ、違うよ!? あの、言葉の綾っていうか……』
「そ、そうだよね! うん、分かってる! 分かってた!」
僕の心臓、バクバクするの、やめて。冷静になれないからさ!
『えっと、じゃあ勉強しよっか?』
「そうだね、そうしよう! 波希マグロさんは今、どこら辺を勉強してるの?」
『えっとね。数学だと――……』
彼女が勉強してる部分は、僕が一年生の三学期に習った部分だった。
授業の進みが違うのかな?
ギリギリ教えられそうというか、記憶に新しいから助かる。
しかし、授業の進みの速さから思うに……。
もしかすると波希マグロさんは、凄く偏差値が高い高校に通ってるのかもしれない。
彼女に勉強を教え、雑談をしていく。
内容はやっぱり声劇とか声活動、イラストやアニメ、映画や役者とかに偏ってたけど……。
お陰で勉強に疲れたとかは一切感じず、あっという間に時間が過ぎていった。
「――あ。もう日付が変わりそう」
『うん……。そう、だね。あっという間ぁ……』
声から眠さが伝わってくる。
何というか、眠気交じりでトロンとした声って可愛いなぁ……。
口から思わず「可愛い」と出そうになるけど、なんとか耐えた。
そんなことを言ったら、さすがに気持ち悪がられそう。彼女を傷つけたくない。
「それじゃ、今日は寝よっか」
『うん……。また明日ね』
また明日も、作業通話をしてくれるの?
どうしよう。この楽しい時間がまた明日もあると考えるだけで、僕の眠気とか吹っ飛ぶ。
でも、今日は寝かせないとだ。
彼女に夜更かしとかさせて、体調を崩してしまったら申し訳がなさすぎる。
「うん。たいぶ汗ばむ陽気になってきたけど、温かくして寝てね」
『うん。……布団、入った』
布団の擦れる音が聞こえた。
生々しくて、思わず顔が熱くなる。
「じゃ、じゃあ今日はこれで! お疲れ様、お休み!」
『うん、お休み……。ばいばい』
照れる感情を抑えつけて、なんとか通話を切った。
大きく深呼吸をして、高鳴る胸を押さえる。
「ああ……。どうしよ」
一線は守らなければいけない。
ネットで出会った関係の人。
ニュースとかでは、ネットから知り合った人同士の事件だって報道されてる。
僕がその加害者にならないよう、理性と距離を保ち続けなければ、なのに……。
憧れとか恩人への感謝って枠を超えて湧き出つつある自分の感情に、凄く戸惑う。
妙な下心を抱くな!
これは、憧れの恩人と初めて通話したからだ!
有名な芸能人と通話できたみたいな、そんな感情なんだ。
きっと、きっとそうだ。
そう自分に言い聞かせて、僕も布団に入る。
部屋を暗くしても、頭の中でぐるぐると最後の声や会話が巡って……。
寝付くまでには、いつもより時間がかかった――。
彼女と通話をする生活が始まってから二週間。
さすがに毎日通話というのは迷惑だろうと思って気が引けたから、週に三回ぐらい。
特に翌日が休みな金曜や土曜を中心に作業通話をしていた。
これだけ通話をしていれば、最初のように胸がばくばくして上手く言葉がでないなんてことも減った。
期末試験までは残り僅かだけど、しっかり計画を立てて声劇やイラスト、勉強をしてたから、今更焦ることもない。
作業通話のお陰で、試験でそれなりの点数を狙える手応えだってある。
『今回のイラストもいいね! 青春って感じだし、背景の景色も綺麗! 本当、素敵だな~!』
「ありがとう! それじゃ、自信持ってSNSに投稿するよ」
イラストの方は、やっぱり描くのが遅めだけどフォロワーは投稿する度に増えてる。
有名な人とか、他のイラストを描いてる方に比べると少ないかもだけど……。
こうして僕が描いたイラストを見て喜んでくれるのは嬉しい。
波希マグロさんから生の声で感想をもらえるのも、コメントをもらえるのもだ。
『あ……。SNS、今回も反応が見られなくて、ごめんね』
彼女の声が曇ってる。
やっぱりSNSをやらないのには、何か理由があるんだろうな。
踏み込み過ぎても、良くないから……。
ほんの少しだけ、様子見の触り程度に話をふってみようか。
「SNSは色々と面倒もあるからね」
『……うん。本当にそう。事実とは違うことも、事実みたいにされたり。それで誹謗中傷されたり』
辛そうな声だ。
やっぱり、過去に嫌なことがあってやめたんだろう。
「ごめんね、変なことを言っちゃった」
『ううん。大丈夫だよ。私こそ、ごめんね?』
「もっと楽しい話をしよっか。そうだ、声劇アプリで波希マグロさんが投稿したコラボ募集の動画、最高だったよ。あの役の演技が心に響いてさ、声の抑揚がまた――」
机に向かいながら、スピーカー音声にした波希マグロさんの嬉しそうな声が返ってくる。
うん、やっぱり彼女は笑って喜んでる声が一番だ。
その声が、僕の気持ちまで幸せにしてくれる。
ただでさえ、ずっとレッスンを頑張ってきたであろう彼女の声は素敵なのに。
透き通って、鼓膜から全身に気持ち良く伝わって……。
そんな彼女の声を聞いてれば、どんな雑談だろうと飽きることはない。
時間は、あっという間にすぎていく。
ふと、スマホから寝息が聞こえてきた。
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