1章 13話
作業通話……。
友達とかと一緒に通話しながら勉強やイラスト、様々な作業をすること、だったよな。
やったことはないけど、聞いたことはある。
でも……。
生声劇以外のプライベート的な通話を、あの波希マグロさんとしていいのか?
面倒がられないかな? 下心があるとか、疑われないかな?
そんなつもりは、なかったんだけど。ただ恩を少しでも返せればと思っただけだし……。
でも……。彼女から作業通話って単語が出てきたなら、嫌じゃないのかな?
『それができたら、メッセージでペンを離さなくていいから効率がいいかもだけど。迷惑じゃない!?』
『私は迷惑じゃないよ! あ、でも七草兎さんが迷惑なら、メッセージもやめる?』
それは嫌だ!
即座に、そう思ってしまった。
この二ヶ月で波希マグロさんの存在は……なくてはならないぐらい、大きく膨れ上がってる。
彼女とのメッセージが日々に喜びを感じられない僕の癒やしで、救いなんだ。
ネットの友達にこんな感情を抱くなんて、おかしいんだろうけど……。
それでも僕は、最初の出会い方がネットかリアルなのか。
その違いがあっただけで、波希マグロさんを大切な人だと感じてる。
『僕も迷惑じゃない! 絶対に迷惑じゃないよ!』
『良かった~。私もできれば、この繋がりを切らないでくれると助かるから。じゃあ通話しよっか?』
『うん! 通話繋いでも、平気?』
『いいよ! 勉強道具も机にあるし、私は準備万端!』
え。
本当に、通話を繋いでいいの?
どうしよう、もう絡み始めて二ヶ月になるのに……。
なんで、通話を繋ぐってだけで指が震える程に緊張してるんだろ……。
ああ、もう! 覚悟を決めろ! 根性と行動力だけは、先生にも褒められただろ!
意を決して、通話ボタンを押す。
呼び出しの音が鳴り響く間、息を止めたように苦しい。
『も、もしもし? 七草兎さん、聞こえる?』
「は、はい! 聞こえます!」
『な、なんで今更、敬語に戻ってるんですか?』
「い、いや……。あの、緊張して?」
声が上擦ってしまった。
うわぁ~。変な人だって引かれたらどうしよう!
『わ、分かります。……あ、私も敬語になっちゃってますね』
「そ、そうだね。うん、なんか……。生声劇と違う個別通話って、緊張するよね」
『は、はい。いや、うん! 私、こ、こういうの始めてで……。ネットで知り合った人と通話するなんて、緊張するなぁ』
「分かる! 顔も知らないのに仲良くなれて、通話するとかね! で、でも! 僕は嬉しい!」
今、絶対に変なことを口走った!
緊張して頭がふわふわしてるせいだ!
『わ、私も嬉しいよ。メッセージだけじゃ味気ないなって、やっぱ文章だとさ、ちょっと冷たい印象があるよね?』
「う、うん。無機質っていうか、勘違いして伝わってたら、どうしようとか!」
『そうだよね! やっぱり、声とか顔を合わせて伝えるって大切だよね!』
「か、顔!?」
このアプリには、ビデオ通話機能もある。
もしかして、ビデオ通話がお望みだったのかな!?
いや、さすがに顔を見せ合うのは……ハードルが高いって!
リアルで会った友達なんて最初から顔も声も見せてるのに、ネットで知り合ったというだけで、凄くハードルが高く感じるよ!
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