第4話

「ちょっと、寛人ひろと! 女の子には優しくしなさいよ!」


 運転席の女のひとが振り返り、座席に座らされたわたしに、にこっと笑いかける。


 この男の子のお母さんだろうか。

 明るい色のベリーショートヘアの、わたしのお母さんより、少し若い感じのひとだった。


「ちゃんと優しくしてるじゃん。遅刻しないように、拾ってあげたんだから。ほら、早く車出して!」

「はいはい。じゃあドアを閉めて、シートベルトも締めてね」


 わたしは言われるままにドアを閉め、シートベルトを締めた。

 それと同時に車がすうっと走り出す。


 どうしよう。つい、乗ってしまったけれど……


「二年生? だよね?」


 隣の男の子が、わたしのネクタイを見て言った。

 この学校は学年ごとにネクタイの色が違うから、わたしのエンジ色のネクタイを見てそう思ったのだろう。


「あ……はい」


 男の子のネクタイも、わたしと同じエンジ色だ。


「何組?」

「さ、三組です」

「えっ!」


 突然耳元で大声を上げられ、わたしは顔をしかめる。


 このひとの声、めちゃくちゃよく響く。

 お願いだから、こんな至近距離でしゃべらないでほしい。


「寛人、うるさい」


 運転しながら女のひとが注意した。

 だけどそんなことは気にもせず、男の子は続ける。


「三組? おれと同じなんだけど!」

「わたし、昨日転校してきたばかりで」

「ああ、そっか! おれ、昨日学校休んでたから……それで会えなかったんだな!」


 そう言って男の子が、人懐っこい顔で笑う。


 どこかで見たような顔……ああ、そうだ。

 クラスの女の子たちに人気だった、アイドルグループの子に似ているんだ。

 わたしはまったく興味がなかったけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る