第3話

 まっすぐ続く海沿いの道を、ぼんやりと歩いていたら、一台の車がわたしを追い越した。

 その車が少し先で、ハザードランプをつけて停まる。


 水色の軽自動車。

 梨本さんの車じゃないし、この町に知り合いなんていない。


 無視して通りすぎようとしたら、後部座席の窓から、男の子がひょこっと顔を出した。

 わたしと同じ、高校生くらいの子だ。


「ねえ!」


 立ちどまり、あたりを見まわす。

 歩道も車道も静まり返っていて、まわりにひとはいない。


 もしかしてわたしに話しかけてる?


「そんなのんびり歩いてたら遅刻するよ!」


 窓から身を乗り出し、わたしに笑いかける男の子は、わたしと同じ制服を着ていた。

 そしてなぜか、頭に鮮やかなオレンジ色のニットキャップをかぶっている。


「乗ってきなよ」

「え?」

「遠慮してないで、早く早く! おれまで遅刻しちゃう!」


 男の子がわたしに、ひらひらと手招きをしている。

 遠慮しないでと言われても、見知らぬひとの車に乗ることなんてできない。


「今日は校門に青センが立ってるはずだから! 遅刻したら一週間トイレ掃除させられるぞ!」


 え、なにそれ。

 そんな校則があるの? この学校には。

 わたしは戸惑いながら車に近づく。


「あの……」

「いいから早く乗って!」


 後ろのドアが開いたかと思ったら、いきなり手を引っ張られ、引きずり込まれた。

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