奥寺夏菜子
世界地図を開いてみている。私の手が陰になって山脈を覆っている。雲になった気分である。真っ先に思い描いたのは、いつも、明日どこへゆくかであった。私は新幹線を生み出していた。今は西暦1400年前後なのであるけれどある日、排便をしていると新幹線のようなものが肛門から捻り出てきてとてもすごい勢いで走り始めて、大阪と東京の間を二時間くらいで行ったり来たりをし始めた。そのようにして新幹線が走り回っているので、私としては、
バーに出かけた酒を飲んだ。酒を飲んでいるといつも思い出される思い出があった。その思い出というのは酒を飲んでいる間だけ思い出されるのであって、今は覚えていない。なので、私自身にとってもなんのこっちゃでありよくわからない。雲を掴むような話である。訳が分からなかった。
私はむっくりと起き上がった。起き上がると雲に手が届きそうなほどであったけれどもギリギリ届かなかったので両手が避雷針となって雲からちょっとチクリとする雷撃が私の両手に降り注いだ。下半身までびりびりと痺れた。やばい下半身付随になってしまうのではないかと思ったけれどもならず、どちらかといえば健康になった。雲間がさっと広がりそこから太陽が覗き込んだ。太陽はとても近く。具体的にいうとコンタクトレンズを嵌めるときの指先にくっつけたコンタクトレンズかと思うほどの距離感であった太陽が近かった。暑い。
と思ったんだけどその一方で寒く。雪が降り注いでいた。寒いのはなぜかといえば雪が降り注いでいるからであり、その雪は、いつも小さく固まって、
私は起き上がって歩き始めたベッドの上を行ったり来たりしたあと垂直に飛び上がり気がついたら屋上まで駆け上がっており、屋上には奥寺夏菜子がいた。
奥寺夏菜子というのは、目が九つある化け物である。化け物なのでとても強くおいそれと
奥寺夏菜子が振り返った。私に気がついたのだ。
「おはよう」と奥寺がいったので
「おはよう」と私が言った。
奥寺夏菜子はにっこりと笑い
角砂糖のような歯を唇の間から溢れさせた。
「今日もいい天気だね」
「そうだね」
奥寺夏菜子が笑いながら、私の胸に飛び込んできたので私は腕を広げてそれに備えた。どしんと体全体に響く衝撃があり、わたしはずささと一メートル近く押し戻された。私の背後にはここまで登ってきた非常階段があり、あともう少しの頃で面白い感じに転げ落ちるところであった。
「今日も元気いっぱいっす」と奥寺夏菜子が言った
「よかったね」って私は言った
「さっきまで空をずっと眺めていたよ」と奥寺夏菜子が言った
空には無数の飛行機雲が走っており、日に日にその数が増えており、
「今日は随分と
「あのさ、奥寺夏菜子」と私は奥寺神奈子に呼びかけた
「なん」と奥寺は私に言葉を促した
「今日限りにしよう。もう」と私は言った
「なんでや」
とてもよく晴れていたので星空がとてもよく磨かれておりとてもよく見えた
空から奥寺夏菜子へ目を転ずれば奥寺夏菜子が徐々に溶け出していた
無数のチワワの死体でつくられた電波塔、通称ちわわタワーがにょきにょきと奥寺夏菜子の中心から生えてきてどこまでも伸びてゆき太陽に突き刺さった。
太陽から直接に熱が伝導しちわわタワーはとても強く発熱し真っ赤になり地球全体が溶け始めた。
「おい」
「なに」
「すごいなあ」と私は奥寺夏菜子に言った。そのときもう奥寺夏菜子はほぼほぼ半溶解しており実存的に不安定であったけれども、まだそれなりの固有性を有していたようで返事があった。
「ほへー」それが奥寺夏菜子としての奥寺夏菜子の最後の言葉だった
その日以降私は奥寺夏菜子に出会ったことがない。
残されたのは全体マグマとかした地球と発熱するちわわタワーと私と溶け切った奥寺夏菜子溶液である。
私たちはそれを奥寺夏菜子状態と呼び、それ以降の数千年間を奥寺夏菜子時代、奥寺夏菜子エポックと呼んだ。
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