世の中の火子
墨汁どくどくどく。墨汁どくどくどくどく。でゅくでゅくでゅく。小さな頃平気で遊んでいた場所に久しぶりにいってみると嘗てのあたしの友達が倒れており、体のところどころから墨汁が溢れていた。全身がうなぎのように真っ黒になっており、草むらは
全身がうなぎみたいに真っ黒な少女。黒くて滑りを帯びており勢いがある。
やから風が降りてくるびゅうわわわ。その降りてきた風を体に纏わり付かせるひだひだの服と服の間に風が入り込み膨らむ。水槽の中でぷっくりと膨らんだ金魚の尾鰭のようになる。やがて風は通り抜けて私の服はいつもどおりに体の輪郭線に収まる。
友人に久しぶりに会った。予期せぬ場所で出会った。予想外であり双方が驚いた。私もその子もお互いに忘れてなどいなかったようだ。顔の輪郭を確かめるように目をすがめた私に対して、その子は手を伸ばしてきた。麒麟の首。
或る日公園に出かけると麒麟の首が転がっていた。それは明らかに麒麟の首だった。一瞬マルタか何かかと思ったけれども、それは明らかに麒麟の首だった。胴体と頭部から切り離されてただ首が転がっており、
その場に居合わせた私たちはお互いに顔を見合わせた。一方そのあと二人で学校へゆくと校庭に首のないキリンが立っていた。つまりとても足の長い牛みたいな感じの豹柄の生き物が生きていた。頭部と胴体の繋ぎ目には手術の後のような縫い跡がしっかりと残っていた。その牛キリンがテクテクと校門で佇む私たち二人に歩み寄ってきた。ちょっと冷静になって視野が広がってくると、校舎の窓越しに無数の同じような牛キリンがひしめいているのが見え、ぼこぼこと校舎の出入り口から1匹2匹と出てくる。
昔の思い出はあまり思い出せなくなってきている。私も歳をとったのだろう。昨日のこともまるで覚えていない。誰とも出会わなかったのだろうと思う。そういえば昔(子供だった頃)はいつも火子と一緒だったな、などと。風鈴がちりんちりんゆう。火子というのは名前である。しかし火子には名前しかない。名前以外は何もない。影もなく動物としての本能もない。しかし、火子とはよく遊んでいた。公園に行くといつも火子が先回りして到着していて火子の掌と私の掌とがぶつかりあって音を立てた「ぱんぱぱんぱん」「ぱんぱんぱぱぱぱ」
世の中。
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