第13話 翻訳プログラムの完成
探査艇の中では、翻訳プログラムがついに稼働を始めていた。地上チームが総力を挙げて開発したそのプログラムは、遺跡の音波と光を解析し、言葉として解釈するものだ。アヤがモニターを見つめる目には、期待と緊張が混じっている。
「これで……遺跡のメッセージを少しでも理解できるかもしれない。」
彼女がつぶやくと、高橋が慎重な口調で応じた。
「分かったことがなんであれ、慎重に進めるんだ。この遺跡がただの構造物ではないのは、もう分かっている。」
村上が操作パネルに向き直り、プログラムを正式に起動させた。その瞬間、モニターの波形が大きく変化し、遺跡のリズムを捉え始める。そして数秒後、初めての言葉が画面に浮かび上がった。
「『共存か終焉か』……?」
村上が驚きの声を上げる。船内には静寂が広がり、全員の視線が画面に集まる。
「遺跡が、我々に選択を迫っているのか?」
アヤが眉をひそめながらつぶやく。
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通信機が鳴り、篠原教授の声が響いた。地上チームの進捗状況もまた、探査艇と同期していたのだ。
「素晴らしい進展だ。だが、これはただの始まりに過ぎない。」
教授の声には、いつもの冷静さに加え、少しの興奮が混じっていた。
「篠原先生、今わかったのは、『共存か終焉か』というメッセージだけです。でも、これが何を意味するのか……。」
アヤの言葉に、教授は一瞬沈黙した後、柔らかい笑い声を漏らした。
「アヤ、こんな機会がもう二度とないことは分かっているだろう?私は責任を取る覚悟で君たちを送り出している。だから、進めるところまで進むんだ。未知を解き明かすのが私たち科学者の役目だからね。」
彼の言葉に、船内の緊張が少し和らぐ。だが、その一方で、地上チームのスタッフが教授に声をかけた。
「先生、政府や外部の研究機関が遺跡の調査に介入する準備を進めています。このままでは……。」
教授は静かに首を振った。
「いいかね。遺跡は人類全体の未来に関わるものだ。それを誰か一部の利益のために利用させるわけにはいかない。何よりも、アヤたちを守ることが最優先だ。」
彼のその言葉は、地上チーム全員に力強い決意をもたらした。
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探査艇のモニターに新たなメッセージが浮かび上がる。
「『調和の証を示せ』」
高橋がその言葉を読み上げた。
「調和の証……これは、ただ音や光を合わせるだけではないのかもしれない。」
アヤが静かに窓の外を見つめた。その先には、青緑の光に包まれたカイの姿があった。彼もまた遺跡の光と共鳴するように低い音を響かせている。
「彼らも同じだ……調和の鍵は、私たちが一緒に未来を築けるかどうかにかかっている。」
アヤの言葉にカイが気づき、探査艇の前までゆっくりと泳ぎ寄る。その姿は、人魚たちの代表として遺跡に答えを求める決意を感じさせた。
村上が翻訳プログラムをさらに調整し、カイの発する音を解析する。その結果、モニターに簡潔な言葉が映し出された。
「『未来をどう選ぶ?』」
アヤはその問いに向き直り、深く息を吸った。そして、翻訳装置を通じて答える。
「私たちは、あなたたちと共に進む未来を選びます。」
その言葉に応えるように、遺跡の光が一際強く輝いた。その輝きは探査艇を包み、さらなる未知へと進む道を示していた。
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アヤは窓の外にいるカイと目を合わせ、微笑んだ。その時、カイもまた小さな音を響かせ、それが遺跡全体に共鳴する。人間と人魚、そして遺跡の意志が初めて一つのリズムを生み出した瞬間だった。
遺跡の未来はまだ全てが明らかになってはいない。しかし、探査チームと人魚たちが共に進むことで、新たな可能性が広がる兆しが見えてきた。
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