第12話 光の試練
遺跡の中心部で球体が輝きを増し、探査艇と人魚たちを包み込むように光が広がった。その光は空間全体に広がると、遺跡の壁面に複雑な模様を描き出した。それらの模様はまるで生きているかのように流動しながら、一つの道筋を示している。
「遺跡が示しているのは……通路?」
アヤが窓越しにその模様を見つめながら呟く。
「いや、ただの通路じゃない。これは遺跡の最深部へ続く道だ。」
高橋がモニターを確認しながら補足する。その通路は、遺跡の全てを解き明かす鍵となる場所へ繋がっているようだった。
村上が険しい表情で言った。
「でも、これだけ強い光と振動があるってことは、ただ進めばいいってわけじゃなさそうだ。」
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遺跡全体が低い音を響かせ始めた。その音が探査艇を揺らし、壁面の模様が一層鮮明になる。同時に、人魚たちが一斉に光を発し、遺跡の輝きに呼応するように動き始めた。
カイが遺跡の音を聞き取りながら、低い声で言った。
「これは、遺跡が我々に協力を求めている証だ。」
セイラが隣で静かに頷く。
「人間と我々が力を合わせなければ、この試練を乗り越えることはできないだろう。」
カイはアヤのいる探査艇の窓に目を向け、低い音を響かせた。それは「共に進む」という意思を伝える音だった。
アヤがそれを感じ取り、静かに頷いた。
「分かった。協力しましょう。」
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探査艇がゆっくりと通路に向かい始める。人魚たちも光を放ちながらその後に続いた。その光が壁面に反射し、通路全体が青緑の輝きで満たされる。
通路の先には、塔の中心部とは異なる、さらに広大な空間が待っていた。そこは遺跡の心臓部とも言える場所で、無数の球体が宙に浮かび、それぞれが異なる光と音を放っていた。
「これが遺跡の中枢……。」
アヤが目を見開きながら呟いた。
その時、遺跡全体が突然震え、低い音が空間を満たした。その音は探査艇の通信装置を通じて翻訳プログラムに解析され、新たなメッセージが浮かび上がった。
「『調和を示せ。未来を選ぶ者の証を。』」
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高橋がそのメッセージを読み上げた。
「調和……これは、ただ遺跡の中心に到達するだけでは終わらない。人間と人魚が真に協力しなければならないということか。」
村上が険しい表情で補足する。
「お互いの音が調和するかどうかが試されている。遺跡の中枢がそれを求めている。」
アヤが深く息を吸い、祖父の歌を口ずさみ始めた。その旋律が探査艇の通信装置を通じて空間に響き渡る。同時に、カイが低い音を発し、遺跡の音と共鳴するように動き始めた。
二つの音が遺跡の中心で交差し、空間全体に新たなリズムが生まれた。そのリズムは次第に遺跡全体を包み込み、壁面に浮かび上がる模様が輝きを増していく。
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しかし、その瞬間、遺跡が大きく震えた。その光が不規則に揺れ、まるで二つの種族を拒絶するかのように激しく変化した。
「何が起きた?」
村上が慌ててモニターを操作する。
高橋が険しい表情で指示を出す。
「何かが足りない。調和が不完全なんだ。」
アヤは考え込むように目を伏せた。そして、顔を上げて言った。
「もう一度、私たちの意志を遺跡に伝えなきゃいけない。音だけじゃなくて……私たち自身が、未来を望んでいることを。」
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カイはアヤの言葉を聞き取り、低く音を響かせた。その音が遺跡全体に伝わり、再び光が安定し始める。そして、アヤが探査艇の通信装置を通じて語りかける。
「私たちは争いじゃなく、共存を望んでいます。遺跡が示す未来を、一緒に守りたい。」
その言葉に応えるように、遺跡の光が一層強く輝き始めた。壁面の模様が一斉に動き出し、新たなメッセージが浮かび上がる。
「『未来の調和は選ばれた。進め。』」
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遺跡が示す新たな道の先には、共存の未来を描く鍵があることを、全員が直感していた。探査艇と人魚たちは、輝きの中へと吸い込まれるように進み始めた。
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