第10話 光の渦中で
探査艇が遺跡の中心部に留まり続ける中、遺跡の光と音が一層強まっていた。遺跡全体が脈打つように輝き、その輝きが探査チームと人魚たちを包み込んでいる。球体の表面には青緑の模様が流れるように動き、その模様が時折、未知の言語として浮かび上がる。
「翻訳プログラムがメッセージを解析中です。新しい文が出てきました。」
村上がモニターに映る文字列を指差した。画面には次の言葉が浮かんでいる。
「『共鳴する者だけが未来を選べる』……?」
アヤはそのメッセージを見つめながら、心の中に湧き上がる不安と期待を抑えきれなかった。
「共鳴する者……私たち?それとも……?」
高橋が冷静に指示を出す。
「この意味を明確にする必要がある。遺跡が求めているのが我々なのか、人魚なのか、それともその両方なのかを確認するんだ。」
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篠原教授から地上施設経由で通信が入る。
「遺跡のデータを解析した結果、この場所が単なる記録装置ではなく、環境の調和や生命体の共存を維持するためのシステムである可能性が浮上した。遺跡が私たちに選択を迫っているのは、その未来を守るためだろう。」
村上がデータを追いながら補足する。
「この球体が中心となり、遺跡全体を制御しているようです。でも、その制御を誰に託すかを遺跡自身が選ぼうとしている……?」
アヤが静かに呟く。
「遺跡は、私たちと人魚に未来を委ねようとしている……。」
その時、通信が一時的に途絶えた。遺跡から発せられる強い音と光が探査艇の通信装置に干渉を与え始めたのだ。
「通信障害か……遺跡が活性化しているせいだな。」
高橋が険しい表情でコントロールパネルを確認する。
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その頃、塔の外ではカイが人魚たちを集めていた。彼の低い音が空間に響き渡り、人魚たちが緊張した様子で集まってくる。
「遺跡が私たちに何かを選ばせようとしている。この人間たちと未来を共有するか、それとも……。」
人魚たちの中には反発する声もあった。
「人間は私たちを追い詰めてきた。なぜ彼らに協力する必要がある?」
カイはその声を静かに受け止めながら答える。
「彼らだけでなく、我々自身も試されているのかもしれない。この遺跡が示す未来を守るために、協力する道を探る価値がある。」
その言葉に、セイラが低く音を響かせる。それは「見極めよ」という意味を含んでいた。
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探査艇の中では、遺跡の光がさらに強さを増していた。その中で、アヤが再び祖父の旋律を口ずさむ。探査艇の通信装置を通じて響くその旋律に、球体が反応したかのように輝きを変えた。
「光が変わった……遺跡が応じている!」
村上が興奮気味に叫ぶ。
その時、探査艇のモニターに新たな映像が映し出された。それは深海の豊かな生命の光景と、それに続く荒廃した地球の未来を交互に描いていた。その中には、人間と人魚の対立が生み出す破壊の映像も含まれている。
「これは……警告だ。未来の可能性が崩壊する危険を示している。」
アヤが深刻な表情で呟く。
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カイはその映像を外から窓越しに見つめていた。遺跡が示す未来が現実となる危険を目の当たりにし、彼の心には決意が芽生え始めていた。
「このままでは共に滅びる。遺跡が望むのは、争いを越えた共存だ。」
カイは低く音を響かせた。その音は球体に届き、遺跡の光が再び変化する。それに応じて翻訳プログラムが新たなメッセージを示した。
「『共に進め』……。」
アヤはその言葉を読み上げ、小さく息をついた。
「共に進む……それが遺跡の望みなんだ。」
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探査チームと人魚たちが初めて遺跡を通じて意志を共有する中、遺跡は新たな光の道を示し始めた。そこには、これまでにない可能性と未知の試練が待っていることを、全員が感じ取っていた。
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