第7話 光の導き

探査艇が遺跡の中心に向かって進む中、周囲の光と音がさらに強さを増していく。青緑色の輝きが遺跡全体に波のように流れ、壁面に刻まれた文様が脈動するように輝いていた。その光景は、遺跡が何かを伝えようとしているかのように感じられた。


アヤは窓の外を見つめながら、低く呟く。


「まるで私たちを……誘導しているみたい……。」


村上がモニターを見つめながら補足する。


「振動データも同じパターンを示してる。この塔全体が、何かを起動しようとしているんじゃないか?」


高橋が鋭い視線でモニターを睨む。


「慎重に進め。これは単なる自然現象じゃない。遺跡がどう動くか、まだ予測できない。」


探査艇が塔の最深部に近づくと、空間が一段と広がり、その中心に塔の根幹とも思える巨大な構造物が現れた。それは階層的に組み上げられた螺旋状の装置で、光の流れが頂上へと吸い込まれていくように見える。


アヤがその光景に目を奪われながら呟く。


「これは……エネルギーの循環装置?それとも……何かの記録装置?」


村上が興奮を抑えきれずに応える。


「間違いない。遺跡全体が一つの巨大なシステムなんだ!この装置がその中心部にある制御機構かもしれない。」


---


その時、通信装置から篠原教授の声が響いた。


「探査チーム、遺跡の音響データに新たな変化が現れた。我々が仮定していた翻訳アルゴリズムが使えそうだ。」


村上がコンピューターを操作しながら興奮気味に報告する。


「翻訳プログラムを接続します!これで遺跡のリズムを言語として解析できるかも!」


アヤが村上の肩越しにモニターを覗き込むと、遺跡の音波が言葉として画面に浮かび上がり始めた。その言葉は断片的ではあったが、確かに意味を持っていた。


「『未来』『選択』『共存』……。」


アヤが画面に表示された単語を読み上げる。高橋が険しい顔でそれに応じた。


「共存……遺跡は何を求めている?」


---


一方、塔の上部で静かに漂うカイは、探査艇から放たれる人工的な光が遺跡の輝きと溶け合う様子をじっと見つめていた。その中で、遺跡の音がさらに強く響き、彼の心に深く染み込んでくる。


「遺跡が彼らに呼びかけている……?」


隣を泳ぐセイラが、低い音で応える。


「遺跡は未来を選び取ろうとしている。私たちだけの未来ではない。人間も含めてだ。」


カイはその言葉に目を細めた。


「だが、人間たちがその未来を壊す可能性だってある……。」


セイラは少し間を置いてから言葉を返す。


「だからこそ、遺跡が選んでいる。彼らがその未来に値するかどうかを。」


カイは深い息を吐き、探査艇を見下ろした。その中にいるアヤの姿が、何かを解こうと懸命に動いているように見えた。


「俺にはまだ分からない……。だが、遺跡の選択を見届けるべきだということは分かる。」


---


探査艇がさらに奥へ進むと、塔の中心部に続く大きな扉が見えてきた。その表面には複雑な文様が刻まれ、青緑色の光がそのラインを走っている。


「これが……最深部の入り口?」


アヤが窓越しに扉を見つめながら言った。その時、通信装置に遺跡からの新たな音が響き渡った。その音は、これまでのものとは異なり、明確なリズムと重みを持っていた。


「遺跡が何かを伝えようとしている……!」


村上が焦るように操作を続けると、翻訳プログラムが新たなメッセージを画面に浮かび上がらせた。


「『選択せよ』……。」


その言葉に船内が静まり返る。


アヤは窓越しに扉を見つめながら、小さな声で呟いた。


「私たちが試されている……?」


---


扉がわずかに光を放ち始めた。それは、探査チームに先へ進むことを促しているかのようだった。高橋が冷静に指示を出す。


「準備を整えろ。この先で何が待っているか分からない。」


探査チームは緊張感を高めながら、遺跡の最深部へと続く扉を前に進む準備を整えた。その光景を、カイは静かに見守っていた。


「遺跡が試そうとしているのは、俺たちだけじゃない。彼らもだ。」


カイは低く呟き、遺跡の音に耳を傾けながら、探査艇の動きを見守り続けた。

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