第6話 深淵の声
探査艇が遺跡の塔の内部へと進むと、目の前に広がる空間は息を呑むほど広大だった。天井は見えないほど高く、青緑の光が柱から柱へと流れるように繋がり、その輝きが壁面の模様に反射している。その動きには、まるで生命の鼓動のようなリズムがあった。
アヤはその光景に圧倒されながら、静かに窓越しに呟く。
「この空間……まるで遺跡全体が生きているみたい……。」
村上がモニターを見つめながら、やや興奮気味に答えた。
「振動と光のリズムが完全に同期してる。これ、何かを起動させようとしてるのかもしれない。」
高橋は冷静に指示を出す。
「記録を怠るな。ここで何が起こるか分からない以上、慎重に進め。」
探査艇がさらに奥へと進むと、空間の中心部に巨大な球体が浮かんでいるのが見えた。その表面には複雑な模様が刻まれ、青緑の光がそのラインを滑るように流れている。球体はゆっくりと脈動し、低く深い音を発していた。
アヤはその音を聞きながら眉をひそめた。
「この音……頭の中に響くみたい。遺跡が何かを伝えようとしてる……?」
その声に、村上がヘッドセットを調整しながら応じる。
「振動データを見る限り、これはただの音じゃない。意味のある信号だ。何かを解読できるかもしれない。」
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一方、塔の上部で漂うカイは、球体を囲む光の流れを見下ろしていた。探査艇の人工的な光がその中に溶け込み、奇妙な調和を見せている。
「遺跡が呼応している……人間たちに……。」
カイは静かに呟く。その声に応じるように、隣を泳ぐセイラが低い音を響かせた。
「遺跡が許しているのだ。だが、その意味を決めるのは彼らだ。」
カイは眉をひそめたまま、探査艇を見つめる。
「もし彼らが遺跡を傷つけるなら……。」
「その時は、私たちが止める。だが、今は見守れ。」
セイラの言葉にカイは短く頷いたが、迷いは拭えなかった。遺跡の意思を信じるべきなのか、それとも彼らを阻むべきなのか——答えはまだ見えない。
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探査艇の中では、村上が新たなデータを解析していた。
「音響装置が新しいパターンを検知した!これ、言語的な構造が含まれてる可能性がある……。」
「言語?」
アヤが驚いた表情で村上を振り返る。
「まだ確証はないけど、これは単なるノイズや自然音とは違う。何か意味がある……何かを伝えようとしてるんだ。」
高橋がその言葉に短く頷いた。
「篠原教授に連絡しろ。地上の解析班と連携して、この音を翻訳できる可能性を探れ。」
アヤはその言葉を聞きながら、窓越しに球体を見つめた。青緑の光に包まれたその存在が、何か重要な答えを握っているように思えてならなかった。
「もしこれが遺跡の声だとしたら……私たちはその意味を理解しなきゃいけない。」
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その時、球体が一際強い光を放った。探査艇全体がその輝きに包まれ、内部にも眩い青緑の光が差し込んだ。低い音が空間全体を震わせ、探査艇の機材にも微弱な影響が出ている。
「警戒を強めろ。この振動、ただ事じゃない。」
高橋が冷静に指示を出す。
だが、アヤはその音に耳を傾けたまま、ゆっくりと呟いた。
「この音……どこかで聞いた気がする……。」
彼女の脳裏に浮かんだのは、幼少期に祖父から聞いた歌だった。その旋律が、遺跡の音と重なるように響いていた。
「……祖父の歌……?」
アヤは思わずその旋律を口ずさみ始めた。その瞬間、球体の光が一層強く輝き、塔全体に新たな音が響き渡った。その音は探査艇の通信装置にも伝わり、船内に低く深い共鳴を引き起こした。
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その音の中で、カイは探査艇を見つめながら呟いた。
「遺跡が応えている……彼らに……。」
その声に、セイラが静かに言葉を返す。
「遺跡の選択が正しいかどうか、それを見届けるのは我々の役目だ。」
カイは深い息を吐き、再び探査艇に視線を戻した。青緑の光の中で、人間たちが何を見つけようとしているのか——それを確かめる時が近づいていた。
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探査艇がさらに奥へと進む中、遺跡の音と光が一層複雑さを増していった。そのリズムは探査チーム全員の胸を打ち、まるで深海そのものが語りかけているかのようだった。遺跡の中心に近づくにつれ、彼らの目の前に広がる未来が少しずつ形を見せ始めていた。
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