第5話 響き合う遺跡

探査艇が塔の内部を進むと、遺跡全体が静かに脈動するように輝いていた。壁面に刻まれた複雑な文様が青緑の光を帯びて動き、その流れが床から柱、そして塔の中心部へと続いている。遺跡が生きているかのようなその光景に、アヤは息を呑んだ。


「模様が流れている……エネルギーのようなものかしら?」


アヤが窓越しに呟くと、村上がモニターを見つめながら応じた。


「ただの装飾じゃないのは間違いないな。遺跡全体の仕組みを動かしている何かかもしれない。」


高橋は慎重に指示を出しながら、さらに進むように促した。


「記録を続けろ。この模様の動きが何を意味しているのか解析する必要がある。」


---


遺跡の中心部へ近づくと、探査艇は巨大な空間に出た。その中央には球体が宙に浮いており、脈動する光が遺跡全体に広がっているのが見えた。


「これは……。」


アヤは言葉を失った。球体はまるで遺跡の心臓のようで、その輝きが柱を通じて壁面に流れていく様子は、まるで一つの生命体のように感じられた。


村上がモニターを凝視しながら報告する。


「振動と光のパターンがさらに複雑化している……これ、遺跡全体の中枢装置みたいに見えるな。」


アヤがその球体をじっと見つめながら答えた。


「この模様、遺跡全体と繋がっている……中枢から何かを動かしているんだと思う。」


---


天井近くで静かに漂うカイが、塔の内部を見下ろしていた。探査艇の人工的な光と、遺跡の青緑の輝きが混ざり合う様子に彼は眉をひそめた。


「遺跡が動き出している。これが彼らのせいだとしたら……。」


カイは低い音を響かせ、隣を泳ぐセイラに問いかける。その音には「警戒すべきだ」という意味が込められていた。


セイラは短く応じる。


「遺跡が受け入れているのだ。我々がすべきことは見守ること。」


カイは遺跡の音に耳を澄ませながら、ふと視線を探査艇の窓越しに向けた。そこに見えたのは、遺跡の輝きに照らされたアヤの真剣な表情だった。


「……遺跡が選び取ろうとしている未来に、彼らが関わるのか?」


カイの問いには、僅かな期待と警戒が入り混じっていた。


---


探査艇が球体にさらに近づくと、それが一際強い光を放った。低く深い音が遺跡全体を震わせ、その振動が探査艇の船体にも伝わってきた。


「音響装置が新たなデータを検知しました!これ、単なるノイズじゃない……。」


村上が緊張した声で報告する。


「この音、明らかに何かのメッセージだ。……言語として成立している可能性が高い。」


「遺跡が語りかけている……?」


アヤはその音に耳を澄ませ、未知の意図を感じ取ろうとした。


その時、通信機越しに篠原教授の声が響く。


「記録を続けろ。この遺跡が何を伝えようとしているのか解明しなければならない。」


---


カイは探査艇と球体の間に漂いながら、遺跡の音に耳を傾けていた。その響きは、自分たち人魚にも未知のものだった。


「遺跡が選び取ろうとしている……。その先に何があるのか。」


カイの目に浮かぶのは迷いと警戒、そして僅かな期待だった。彼は低い音を響かせ、遺跡の意図を探ろうとしていた。


その音に応じるように、球体がさらに輝きを増し、遺跡全体に新たな光が広がった。探査艇はその光に包まれながら、さらなる未知の領域へと進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る