第3話 光の中の影
探査艇が深海の闇を進む中、青緑の光が窓の外にちらついていた。その動きは規則的ではなく、海流に漂う物体のように見えたが、どこか意思を持つように感じられる。
「距離800メートル……周囲に新たな光反応を検知。振動波が安定している。……これ、ただの発光生物じゃないかもしれない。」
村上が音響センサーを確認しながら、興奮気味に声を上げた。
アヤは窓越しに外を凝視する。光はただ漂っているだけではなく、探査艇の進行方向に合わせて動きを変えているように見えた。
「高橋さん、これ……私たちを誘導しているみたいです。」
高橋が慎重に指示を出した。
「目視を優先しろ。刺激を与えるな。……村上、外部カメラを最大ズームに。」
モニターに映し出された青緑の光は、徐々に形を持ち始めた。腕のようなものが揺れ、尾びれのようなものがはためいている。
「……これ、まさか……。」
村上が声を詰まらせた。モニターの画面には、光に包まれた人影が浮かんでいる。それは魚ではない。だが、人間でもない。
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「周波数が変わりました!音響センサーが反応しています。」
村上の報告に、アヤは操作パネルに目を向けた。波形データが規則性のあるパターンを示し始めている。
「高橋さん、音が……まるで私たちに応答しているみたいです。」
「応答だと?」
高橋の声には疑念が混じっている。だが、アヤにはその音がただの偶然には思えなかった。不規則でありながら、どこか人間のリズムを感じさせる響きだった。
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光がさらに近づいてきた。その影は、探査艇の外壁に沿うように動いている。アヤが窓に顔を近づけると、青緑の輝きに包まれた存在が一瞬浮かび上がった。それは、まるで神話に語られる「人魚」のような姿をしていた。
「本当に……いるの?」
アヤが小さく呟く。その時、探査艇が小さく揺れた。何かが外壁に触れたのだ。
「慎重に後退しろ。外部接触の可能性がある。」
高橋が冷静に指示を出した。探査艇がゆっくりと後退を始めると、光は再び暗闇に溶け込むように消えた。
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その後、探査艇は徐々に進行を再開し、音響センサーが示す方向に向けて進んでいく。闇の中にかすかに見える巨大な影が、アヤたちの前に現れた。
「これ……遺跡?」
窓の外に広がる光景は、自然が作り出したものではなかった。柱やアーチのような構造物がぼんやりと見え、青緑の光がその表面を滑るように動いている。
「人工物だ。……これが、深海に眠る遺跡か。」
高橋の声には驚きと警戒が滲んでいた。
アヤはその光景を見つめながら、心の中で確信していた。この場所が、祖父が語っていた「地球の声」の正体に繋がる鍵であると。
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