第3話 幼馴染のセシリア
とりあえず、アンナは勝手に納得してくれた。
あとは発言に気をつけつつ、今の俺に慣れてもらうか。
それより、これからどうする?
最初の破滅イベント?を回避したが、この後には何がある?
くそっ、こんなことならゲームをちゃんとやっておくんだった。
断片的な記憶しかないから、上手く対処しきれるかどうか。
「ご主人様?」
「いや、これからどうしようかと思ってな」
「ふむふむ……とりあえず、難題を乗り越えてからにしましょう」
「難題?」
その時、ドタドタと足音が聞こえてくる。
それはどんどん近づいていき、扉が勢いよく開かれた。
「リオン! いる!?」
「……セシリアか」
そこにいたのは、幼馴染であるセシリア-ブリギット。
意志の強い眼差し、整っているが気の強さを感じる顔つき。
量が多く艶のある紅髪をなびかせる姿は様になっている。
炎を司るブリギット公爵家の長女にして、弓の名手でもある女性だ。
「聞いたわよ。王太子になれなかったんだって?」
「ああ、そうだな」
彼女の父親は俺の親父の親友にして、この国の宰相でもある。
既に情報を知っていたとしても不思議ではない。
口を漏らすような方ではないが、セシリアには相変わらず甘いようだ。
「ふーん……だから言ったじゃない。あんな態度してたら、いくら才能や力があっても王太子にはなれないって」
「ああ、君のいう通りだな」
この子は場合によっては、俺の敵に回る人物だ。
主人公と共に、俺を追い詰めていくキャラだ。
しかし、ゲームのとあるシーンを見ていた俺にはわかる。
彼女は、幼馴染のリオンを止めたかっただけなことを。
その証拠に、最後に彼女は泣きながら俺に矢を放つのだ。
「……へっ? リ、リオンが間違いを認めた?」
「おいおい、俺だって……まあ、色々と済まなかったな」
彼女は悲劇のキャラとも言われ、リオンのせいで運命を翻弄される。
実は二つのルートがあり、もう片方はリオン側につくこと。
主人公サイドからすると、隠し攻略キャラってやつだ。
「うそっ!? リオンが謝った!?」
「……セシリア、もう俺に関わるな」
「ど、どういうことよ!?」
「俺といても、君は幸せになれない」
彼女が驚くのは無理もなく、リオンは傲慢で謝る事などしない。
あんまりリオンらしかぬ行動は疑いを招くのでしたくなかった。
ただ、まだ破滅ルートを回避したかはわからない。
だったら、彼女は俺から遠ざけるに越したことはないはず。
リオンにとっては、彼女は大事な幼馴染なのだから。
「そ、そんなのは私が決めることだわ!」
「だとしてもだ。君は学園に行き、そこで素敵な男性に出会うさ」
そうすれば、少なくともセシリアが破滅に巻き込まれることはない。
セシリアは気が強いが、その本質は優しい子だ。
なので少し寂しいが、セシリアが死ぬよりは良い。
「な、な……私は」
「二度は言わない。それと、俺は表舞台から降りるつもりだ」
「表舞台から降りる……? まって、あの傲慢な貴方が……いえ、そういうことなのかしら?」
「セシリア?」
「う、ううん! 何でもないわ! とにかく、私の生き方は私が決めるから!」
そう言い、部屋から飛び出していく。
相変わらず気が強くお転婆で、公爵令嬢には見えんな。
だがリオンは、実はそんな彼女のことを悪く思ってなかったのだ。
だから、幸せになって欲しい。
「さて、これで問題は一つ片付いたか。さて、話を戻すがどうするかね」
「そうですね……とりあえず、女心から学んだ方がよろしいかと」
「うん? どういう意味だ?」
「いえ、わからないなら良いのです。それで、ご主人様は今後どうしたいのですか?」
「どうしたいか……そうだな」
当然、死にたくはない。
せっかく転生したんだし、今世ではのんびりと過ごしたい。
破滅ルートを回避して、全く違うリオンとして生きていく……これだな。
そうなると、徹底的に主人公と関わらなければ良い。
同時に、平和を脅かす要素を排除せねば。
「アンナ、俺は表舞台から降りたい。そのために、排除すべき者達がいるな?」
「はい、ご主人様を王太子につけたい者達が動き出すかと。ユーリス様を害そうとしたり、国王陛下の力を削ぎに来るかと」
「ふむ、何人か頭に浮かぶな」
そいつらはリオンを利用するだけ利用し、あとで見捨てる者達だ。
リオンを持ち上げ、兄上と敵対するように仕向けたり。
無論、リオンにも責任はある。
だが、醜いことに変わりはない。
「どうしますか?」
「——表舞台から消せ。ただし、出来るだけ穏便な」
「御意」
それだけで俺の言葉を理解し、アンナが風のように消える。
流石にこの段階で殺すのはまずいし、前世の記憶もあるのでしんどい。
なので、搦め手を使い上手くやってくれるだろう。
その時、アンナの言葉を思い出す。
「そういえば、やりたいことか……甘いもの食いたい」
前世の俺は甘党男子で、スイーツを好んで食べていた。
このゲームの世界にはお菓子程度はあるが、きちんとしたスイーツはない。
……待て、俺の能力があれば可能なのでは?
「よし、俺の目標は決まった」
まずは主人公を避けつつ、自分の破滅に関わりそうな要素を排除する。
そして、徐々に平穏な暮らしを目指していく。
最後に氷魔法を駆使して——スイーツ男子になるとしよう。
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