第4話 国王視点

 ……一体、なんだったのだ?


 アレは、本当に息子のリオンなのか?


 リオンが去った後も、私はしばらく呆然としていた。


 それくらい、リオンの対応は不可思議なことだったのだ。


 てっきり、激昂するのだとばかり。


 こちらは最悪の場合、彼奴を捕らえる覚悟でいたというのに。


「国王陛下、お気を確かに」


「……すまん、放心してしまった」


 隠し扉の裏に隠れていた、宰相でありつつ私の護衛でもあるゼノスが話しかけてくる。

 逞しく締まった体に180を超える身長、若い頃は近衛騎士団長を務めた男だ。

 確かな剣の腕前と忠誠心により、私が全幅の信頼を寄せる相手でもある。

 ……最悪の場合、リオンを取り押さえる役目でもあった。


「いえ、無理もないかと。それほどに、リオン殿下の様子は変でしたから」


「お主の目から見てもそうだったか。忌憚なき意見を聞かせてくれ……お主は、どうなると思った?」


「そうですね——最悪、この剣を使うことになるかと思っておりました」


 そう言い、鞘に手を添える。

 此奴は私に危害を加えるなら、リオンであろうと容赦はしないだろう……例え、自分の娘の幼馴染であろうとも。

 それほどに、最近のリオンには困っていた。


「やはりか……いや、今までの彼奴の行動を考えたら無理もないか」


「はい。昔の聡明さは鳴りを潜め、すっかり傲慢になってしまいましたから。メイドや兵士達にも当たり散らし、常に偉そうで傲慢さを隠そうともしない。私とて、何度進言したことか……」


「お主も苦労をかけたな。確かに、小さい頃はああではなかったのだが」


 そう、そうなのだ。

 忘れていたが、リオンは小さい頃は神童と呼ばれた子だった。

 聡明で優しく、よく笑う子だったはず。

 それがいつからか、ああなってしまった。


「もしかしたら……我々にも責任があるのかもしれないですね」


「むっ? どういう意味だ?」


「神童と呼ばれるリオン殿下に安心しきり、放ってしまったことが原因なのかなと。それこそ、国王陛下がユーリス殿下にかかりきりになったり」


「それは……そうかもしれない」


 ユーリスはお世辞にも優秀とは言えず、身体もそこまで丈夫じゃない。

 第一王子ということもあり、リオンより優先したのは確かだ。

 良く良く考えてみれば、リオンは早くに母を亡くしているというのに。


「我々も、セリカ様に甘えてしまいました」


「あぁ、セリカには負担をかけてしまった。私は私で、愛する妻に似たリオンの顔を見るのが辛かった時期でもあった」


 さらさらの銀髪に、切れ長で整った容姿。

 それは私が愛した妻にそっくりである。

 それもあり、私は一時期避けてしまったことがある。


「そして、気がついた時には……もう手遅れでしたな」


「うむ、いくら言っても聞きはしなかった。なのに、どうして急に?」


 そう、本題はそこだ。

 どうして変わったかを考えねば。

 このままでは、逆に不安である。


「流石にわかりませんが、少し様子を見るべきかと。実は裏で動く可能性も否定できませんので……不敬は承知の上です」


「いや、お主にはそれを求めている。ブリギッド家には、その資格がある」


炎を司るブリキッド公爵家は、建国以前から王家を支えてきた。

それこそ、どちらが王になる功績を残したか違いがないほどに。

故に代々宰相になり、時に諫言をして王を導く存在でもある。


「そう言ってくださると幸いです。それでは、そのついでに……監視もつけてもよろしいでしょうか? 先ほどの通り、何か動きを見せるかもしれません」


「うむ、その可能性もある。わかった、許可しよう。それこそ、妙な動きを見せたら……」


「その時は覚悟を決めましょう。国を割る事態だけは避けなくてはなりません」


「うむ、そうなっては欲しくないが……ともかく、様子を見る必要がある。王太子任命の件も、引き伸ばすとしよう」


「それが良いかと。幸い、知っているのは最小限の者達なので」


「うむ、王太子を決めるのに不安要素があってはいけない」


 あやつは一体、何を考えている?


 ああなってしまったが、私にとってはリオンは愛する妻の忘れ形見だ。


 出来れば、罰したくはない……ましてや、この手で裁くなど。


 そして、もし本当に改心したなら……もう一度、親子として過ごせるだろうか。

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主人公に断罪される悪役に転生したけど、関わらずにのんびりと過ごしたい おとら @MINOKUN

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