第2話 メイドのアンナ
その後、俺は自分の容姿を確認する。
それを見て、改めて自分がリオン-フレイヤなのだと自覚した。
「さらさらの銀髪に青い眼、切れ長で整った容姿に細身のスタイル……間違いないな」
どう見ても、姉が持っていたフィギアにそっくりである。
よくカッコいいと言っていたが、確かに中々にカッコいい容姿だ。
身長も175くらいあるし、これはモテるだろう。
「まあ、今の俺にとっては何にもならないが。このまま、静かに過ごしたいし」
さてさて、とりあえずこれからどうする?
そもそも、なんで転生した?
というか、俺はいつ死んでしまった?
「……最後の記憶は確か、甘いものを食べていたような」
そうだ、俺は糖尿病なのに甘いものを食べ過ぎてしまった。
それによって、病院に運ばれたのは覚えている。
「つまり、それが原因? ……我ながら、なんと情けない」
アラサーなのに、死因がそれとは。
ただ、姉には迷惑をかけてしまった。
両親は既に他界し俺は結婚もしてないので、手配などは姉がしてくれたに違いない。
「いや、あの姉だから『馬鹿ね』とか笑ったかも……だといいな」
そういえば、今の俺にも姉がいたな。
そこら辺を整理しよう。
俺の父は国王で、母親が違う三つ上の兄が第一王子だ。
その第一王妃には俺より五歳下のラーラ王女がいる。
「そして、俺はフレイヤ王国の第二王子のリオン。第二王妃の一人息子で、同じ母親を持つ七つ上の姉が一人。そして、母親は俺を生んで数年後に亡くなってる」
だから、姉であるセリカが姉であり母親に近い。
リオンはそれを疎ましく思っていたはず。
彼女は最後まで、俺の味方をしてくれたというのに。
結局、この手で殺してしまう。
「……今世では、そんなことにはさせない」
二度も、姉を悲しませるものか。
そこで、ふと気づく。
その感情が、誰のものなのかと。
「……俺は転生したが、きちんとリオンの記憶や感情はある。父や兄に対する複雑な感情、姉に対する気持ちも。そこに、前世の記憶が上乗せされた感じか?」
言葉にすると、割としっくりきた。
どうやら乗っ取りや別人格というわけでもなく、混じった感じになっているっぽい。
ただ違和感を覚える人はいると思うので、そこは徐々に慣れていくしかない。
「さて、ひとまずこんなところか」
「さっきから、何をブツブツ言っているのですか?」
「うおっ!? おいおい、驚かすなよ」
振り向くと、いつの間にか黒髪を肩で切り揃えたメイド姿の美少女かいた。
背が小さく、人形のような綺麗な顔立ち。
それは、俺の専属メイドであるアンナだった。
ちなみに言っておくが、エッチな関係はありません。
リオンは、その辺りについてはしっかりしていたらしい。
「……ご主人様、何か雰囲気変わりました?」
「うん? そうか? ……まあ、色々と思うところがあってな」
「国王陛下に呼ばれたことに関係が?」
その言葉に、少し考える。
この子は俺に襲いかかってきた元暗殺者だ。
それを気まぐれに救い、今では俺に忠誠を誓っている。
本来のストーリーでも、最後まで付き従ってくれた。
故に信頼していいだろう。
「あぁー……実はな、王太子が兄上に決まったらしい」
「——今から、ユーリス殿下を殺してまいります」
「はい?」
「大丈夫です、ご主人様にはご迷惑をおかけしません」
「まてまてーい!」
動き出そうとするアンナの腰にしがみつき、どうにか引き止める。
やだっ、この子ってば怖い! そういや、この子はそういう子だった!
妄信的に俺に従っており、いわばリオン至上主義なのだ。
「ちょっ、お尻に顔が……そういうのはベッドの中でお願いします」
「そういうことじゃない! 何を顔を赤らめてる!?」
すると、俺を振りほどいてこちらに向き合う。
ふぅ、危ない危ない。
「まあ、冗談はさておき……」
「いや、冗談には見えなかったが?」
俺がそう言うと、顔を背けた。
これは、発言には気をつけなくてはいけない。
すると、打って変わって真面目な表情を浮かべた。
「それより、やはり変わりましたね。ずっと、王位につきたいのではなかったのですか?」
「あぁ……」
言い訳はどうする?
俺自身もまだリオンと混ざったばかりで、上手く芝居が出来ない。
以前のリオンなら、ここで怒り狂うような傲慢な性格だった。
だが破滅のこともあるが、転生前の人格が混ざり変化してしまっている。
「まさか……偽物?」
「あぁー……」
そう言われると否定ができない。
俺自身も、今の状態がよくわかっていないし。
リオンと言われればリオンだし、前世の俺といえば俺だし。
そんなことを考えていた次の瞬間——俺は鞘から刀を抜いていた。
アンナによる短剣の攻撃を、ギリギリで受け止める。
「……何をする?」
「失礼いたします」
そしてアンナは、次から次へと斬撃を繰り出す。
広い部屋の中を駆け回り、その攻撃に対処していく。
そのまま続けること数分……アンナの動きが止まった。
「……どうやら、本物のようですね」
「そんなことのために斬りかかったのか……こわっ」
本当に恐ろしい子!
俺じゃなかったら死んでたね!
……このネタがわかる人はハンター世代です。
「私にとっては重要ですので」
「というか、そんなことなら……これでいいだろ」
俺は掌から氷を発動させる。
これが、俺がリオン-フレイヤである証明だ。
何故ならこの世界において、リオンこそが唯一の氷魔法の使い手だからだ。
「あっ、本物ですね」
「ったく、早とちりしすぎだ」
「申し訳ございませんでした。お詫びとして、伽をいたしましょう」
「しないでいい……脱ぐな脱ぐな!」
「冗談ですって」
そうは見えなかったのだが?
というか、俺が受け止められなかったら斬られていたのでは?
こんなところにも、死亡フラグが隠されていたか……怖い。
「ともかく、俺は俺だ」
「しかし、それにしても変わりすぎな気が……もしや、そういうことでしょうか?」
「ん?」
「これまでの姿こそが偽りで、こちらが本来のご主人様? そもそも、私の命をお救いになるような優しいお方。ですが、一体、なんのために?」
「おーい?」
「もしや、王位継承争いになるのを避けるために演じていた? 敢えて悪名を上げて……」
何やら、一人でブツブツと言っている。
絶妙に小声で、上手く聞き取れない。
「おーい? よく聞こえないが」
「申し訳ありません。ですが、理解しました」
「何も言ってないのだが?」
「私の選んだ方は、立派な方だとわかりましたから」
「……そうか」
よくわからないが、勝手に納得してくれたらしい。
それは助かったのだが……何やら嫌な予感がするのは気のせいだろうか?
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