その30

「なにこの図」


 と妙子が言った。


「CVP分析の図。この接点が損益分岐点」

「損益分岐点、がなにかから説明をして。九っち」

「損益分岐点っていうのはさっきから話題にしてる利益がとんとんになる水準のことだよ。現状だと一日で一一一人来客がないと、売上高三三〇〇万円は達成できない」


 僕が損益分岐点に指を当てて説明を加える。


「利益を増やすには客数を伸ばす他に、この損益分岐点を下げることで実現できるんだ。具体的には変動比率を下げるか固定費を削減する。コスト削るパターンだね。それか逆に、客単価を上げる。そうしたら損益分岐点がこう、左にぐっとスライドしてきて、より少ないお客さんでも同じだけの利益が確保できるようになる」

「この損益分岐点っていう接点より右の水準だと、利益になるって認識でいいんだよね」


 妙子が尋ねてくる。


「うん。その通り」

「ごめん……私は着いていけない。ちんぷんかんぷん」


 西恋寺さんが画面から目を逸らした。

 僕はグラフの元になっているCVP分析の式を、改めて二人に示す。


  イ.の線 : 売上高 = 単価(傾き@)× 販売数量(=客数)

  ロ.の線 : 変動費 + 固定費(客数がゼロでも固定費だけかかる)

  ハ.の線 : 固定費(ずっと一定)


  損益分岐点売上高は次の式で表すことができる。


  損益分岐点売上高 ー 変動費 ー 固定費 = 0(利益がちょうどゼロ)


  イ.の線とロ.の線の接点が「損益分岐点売上高」となる。

  損益分岐点売上高おける客数(X軸)の値 = 損益分岐点売上高 / 単価(傾き@)


  売上高 ー 変動費 = 限界利益(又は貢献利益)と呼ばれる。

  変動費 / 売上高 = 変動費率

  1 ー 変動比率 = 限界利益率

  (~~ 計算略 ~~)*巻末注記


 (最終的な方程式)損益分岐点売上高 = 固定費 / 限界利益率


「この方程式を見ての通り、固定費と変動費が分かれば、損益分岐点が求まるでしょ。それで、損益分岐点売上高を下げるには、分子の「固定費」を下げるか、分母の「限界利益率」を上げるかする必要があるよね。限界利益率は変動比率の逆の関係にあるから、限界利益率を上げるならば、変動比率は下がることになる」

「へぇ。なんとなく理解したわ」


 妙子が言った。


「簿記って数式のことなんか」

「工業簿記だと少し数式が出てくるよ。複雑なものは出てこないけど。商業簿記だと四則計算ができれば十分だよ」

「あたしはこれ、損益分岐点を下げなくても客足伸ばせばいいって思ってるの」

「その主張だよね。でも損益分岐点を下げて見たら分かるけど、その後の利益の金額がレベチで改善するんだ。イ.の線の単価(傾き@)を上げたら、ほら。損益分岐点が左に移動した」


 僕は妙子の主張する販売数量(客数)を二〇パーセント伸ばす『ケース1』と、単価を二〇パーセント伸ばす『ケース2』をそれぞれ図で書き足して、二人に見せてあげた。客数を二割増やしても、単価を二割伸ばしても、売上は同額となる。



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(CVP分析を使った2パターンの比較)

https://kakuyomu.jp/users/mogumogupoipoi/news/16818093089686525906

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