第五章 誰が責任とるの?

その26

 みなで店内掃除を進めること、丸一週間。とんかつあぁやは想像以上に変貌を遂げた。まず、テーブルと椅子の配置換えを行い、無駄な空間を有効活用した。席数を変えずに席と席との距離に余裕を持たせた。店先ののれんも地味なグレー色から、落ち着いた暖色系に付け替えた。僕から見ても入りやすい雰囲気になったと思う。自宅での勉強も、まあまあ捗っている。お店の決算書を見ながら勉強すると、役に立つことを学んでいるな、と思えて勉強にも身が入った。そんなある日、妙子から召集がかかる。土曜日にお店に呼び出された僕は、裏口から入った狭いスペース脇に、段ボールが三つ積まれているのを発見した。


 妙子が僕に気付いて寄ってくる。


「あ、九っち来た。じゃあ行くか」

「久しぶり。模試は終わったの?」

「もちろん。今日から年末までバリバリやってくぞ! んじゃま、これ背負って」


 妙子から渡されたのは黒のリュックだった。


「なにこれ。重っ!」


 受取ると手にすごい重力がかかる。米でも入っているのかと思い確かめたらチラシだった。


「完成したんだ。え、紙なのにこんなに重いの?」

「この三箱。全部チラシ」


 一番上の段ボールだけ開封されている。シュリンクの張られたチラシの束が詰まっていた。


「九くんおはよ! メニューも届いてるよ。いまメニュー表作ってるの」


 西恋寺さんが厨房からやってきて、僕に新メニューを披露する。


「おお、すごい完成度」


 リメイクされたメニュー表は、いい感じに改善されていた。旧メニュー表はテキストベースの一枚の紙だったが、新メニュー表は冊子っぽくなっている。全部で六ページ。一つずつのメニューに写真が使われており、メインの定食メニューはどん、と紙面の半分を贅沢に占有している。売りたいメニューとサブメニューのメリハリがついた。写真も上手く掲載されていた。定食にはご飯とお味噌汁、漬け物がつくので全容が分かるような写真が一枚。そしてとんかつにフォーカスした食べたくなるアップの写真が数枚。一つのメニューに複数枚の写真が使われている。一緒にどうぞ、と一品ものやデザートのアイスや杏仁豆腐が併せて掲載されていた。


「頼む前にイメージが掴めていいよ。デザイン部すごいね」

「でしょ? チェーン店みたいにちゃんとしてるんだよ」

「ほら九っち。行くぞ」


 西恋寺さんとしゃべっていると、妙子に腕を掴まれて連行されそうになる。


「行くってどこに?」

「チラシ配り。メニューの張り替えは絢ちがやるから。あたしらは集客」

「配るってどこで?」

「いいから。歩きながら話すから」

「分かった」


 僕は重たい鞄を背負い、妙子のあとについて行った。

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