渓流釣り

 Kさんの趣味は渓流釣りで、休日のたびに山に出かけて登山と釣りを楽しんでいる。

 その日もネットで知ったポイントへと藪を漕いで渓流へと降り、釣りを始めた。「ここの魚はスレていない」というネットの書き込みのとおり、釣り糸を垂らすとすぐに一匹目がかかり、その後もおもしろいように釣れた。

 しばらく時間を忘れて夢中で釣っていたKさんだったが、ふと誰かに見られているような気がして視線を上げた。

 誰もいない。日光は暖かいし、流れる水はきらきらと光を反射して、聞こえる音は周囲の木々の葉がそよ風に揺れるかすかな音と、ざあざあという川の流れの音だけだった。

 それでも冷たい水に膝まで入っているせいか、何とも薄ら寒い感じがして、Kさんはわざと声に出して独り言を言った。

「気のせいか」

 次の瞬間、バラバラバラッと背後の梢を鳴らして小石か木の実のようなものがバチャバチャと水面に落ちた。

「うわっ!」

 思わずKさんは悲鳴を上げ、バランスを崩して川の中に尻もちをついた。アーッハッハッハッ!と誰かが大笑いする声が山から聞こえてきた。

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