第7話 竜付き
夜が明け、ライドとフィーニスは男子寮を出て校庭へ向かった。校庭には新入生たちが集まり、整然と列を成している。
「うわぁ……広いな。こんなに人がいるのかよ」 ライドは見渡す限りの生徒たちに目を奪われ、驚きを隠せなかった。フィーニスは控えめに頷きつつ、説明を添える。
「今日のスケジュールは挨拶と組み分け発表だけみたいだよ」
「それなら楽勝だな!」
ライドは肩の力を抜き、少し気楽になった様子だ。
壇上に現れたのは、学園長ゼリオス・アルカイン。長老のような威厳ある佇まいで、生徒たちは自然と静まり返る。
「ようこそ、アストレア竜騎士学園へ。この学園の長を務めるゼリオス・アルカインじゃ。ここは竜と共に歩む者を育成する場であり、ここに立つ君たちはその第一歩を踏み出した。努力を惜しまず、誇り高き竜騎士を目指してくれ」
学園長の深みのある声が校庭中に響き渡り、生徒たちは一様に背筋を伸ばす。その後、壇上に現れたのは王国の姫、アリシア・アストレアだった。端正な顔立ちに、堂々とした立ち姿。すべての視線が一身に集中する。
「王国を代表し、この学園の生徒会長として挨拶します。アリシア・アストレアです。この学園で学ぶ時間が皆さんにとって有意義なものとなることを願っています。そして、竜騎士として王国の未来を支える存在となることを期待しています」
気品ある声に、ライドは思わず感嘆の息を漏らした。
「おいおい、あれが王国の姫様かよ……すげぇな」 ライドが呟くと、フィーニスが耳元で囁く。
「彼女はアリシア王女。彼女の相棒の竜は『蒼翼のヴァルグリム』。とても強いって評判だよ」
「蒼翼のヴァルグリムか……」
ライドはその名前を反芻しながら、姫の存在感に圧倒されていた。
組み分け発表とDクラス
続いて組み分け発表が始まる。Aクラスから順に名前が呼ばれていく中、ライドの名前は最後まで呼ばれなかった。そしてついに、Dクラスに自分の名前が記載されているのを見て苦笑いを浮かべる。
「……俺、Dクラスか」
フィーニスも首をかしげ、不思議そうに呟いた。
「君、学力も体力測定も優秀だったのに。最後のテストでも及第点を取ってたし、竜将軍の息子だよね?普通ならAかBに入るはずだよ」
「まあ、いろいろ訳ありなんだよ」
ライドは苦笑いで誤魔化した。
「そっか……」
フィーニスもそれ以上は追及せず、ライドはふと問い返す。
「そういや、お前もどうしてDクラスなんだ?見た感じ、貴族階級っぽいし、成績もよかったよな?」
「僕の家も色々あってね……」
申し訳なさそうに答えたフィーニスに、ライドはそれ以上聞くのをやめた。
Dクラスの教室に入ると、黒い軍服姿のダリオンが気怠そうな様子で生徒たちを見回していた。昨日の竜騎士であることに気づいたライドは内心舌打ちする。
「ダリオン・クロウだ。このクラスになった奴は竜騎士になれると思うなよ」 初めの挨拶とは思えない冷ややかな言葉に、教室内がざわつく。
「おいおい、先生にしちゃあ挨拶が暗ぇな」
軽口を叩くライドに、ダリオンの鋭い視線が突き刺さる。
「黙れ、小僧。……さて、まずは最初の授業だ。貴様らは全員『竜無し』だろう。まずは相棒の竜を見つけるところから始める。ついてこい」
「竜無しってなんだ?」 歩きながらフィーニスに尋ねるライドに、フィーニスは苦笑を浮かべる。
「君、ドラゴンの知識はすごいのに、竜騎士の基本は知らないんだね」
「まぁな!詳しく教えてくれよ」
「竜無しっていうのは、まだ相棒のドラゴンがいない人のことだよ。それが『竜付き』になって、卒業後に従騎士、最終的に王国に認められて竜騎士になれるんだ」
「へぇ、そんな感じなんだな」
「Aクラスにはすでに相棒のドラゴンがいる人が多いみたいだし、BとCはその途中段階。Dはまあ……竜無しばっかりだよね」
「じゃあ、ドラゴンがいない奴はどうすんだ?野良ドラゴンでも捕まえに行くのか?」
「危ないことはしないよ。学園で育てているドラゴンの中から選ぶことになるんだ」
「ってことは、俺にピッタリなドラゴンもいるかもしれないってことだよな!」
ライドは自信満々に拳を握る。だが、フィーニスは昨日の小竜試験を思い出し、冷や汗をかいていた。
竜舎に到着すると、管理担当の筋肉質な女性が生徒たちを迎えた。
「ドラゴンとの相性は一目ぼれが大事だよ。それぞれのドラゴンの前に立てば、向こうから近づいてきてくれるはずさ」
次々と生徒たちが相棒を見つけていく中、フィーニスの前には蝶のような羽を持つフェアリードラゴンが近づいてきた。
「珍しいね。この子はヒールブレスが使える優れたドラゴンだよ。君が本当に優しい人だから選んだんだね」
管理女性が感心した様子で説明する。
そして、最後にライドの番が来る。
「よし、俺の相棒はどの子かな!」
胸を弾ませて竜舎に足を踏み入れたライドだったが、空気が一変した。竜たちの視線が敵意に満ち、怯えるように後ずさる。
「な、なんで……?」
動揺するライドに、一頭の大きなドラゴンが牙を剥いて襲いかかろうとする。その瞬間、ダリオンが片腕でドラゴンの頭を押し止めた。
「言っただろう。これがお前の咎だ。竜騎士になるなど無理だ。さっさと出ろ」
「そんなはずねぇ!俺にだって、いつか相棒が――」
だが、フェアリードラゴンでさえ怯えてフィーニスの背後に隠れる様子を見て、ライドは拳を震わせながら竜舎を飛び出していった。
「ライド!」
追いかけようとするフィーニスを、ダリオンが冷たく制した。
「放っておけ。竜に認められなければ竜騎士にはなれん。それだけの話だ」
走る途中でライドの目には悔し涙が浮かんでいた。
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